管理職サルーンの象徴 フォード・ゾディアック オースチンA110 ヴォグゾール・クレスタ 前編

公開 : 2023.04.16 07:05

管理職向けにデザインされたフォード、オースチン、ヴォグゾールのサルーン。成功者の象徴だった3台を、英国編集部が振り返ります。

ビジネスの成功者がステアリングを握った

コーヒーとタバコの香りが風に漂う。ロンドンの西、ナフィールドにあるメーカーズ・カフェは、今後の経営に悩んでいるという。とても雰囲気の良い場所だから、ぜひとも存続して欲しい。

その駐車スペースに並んだ3台は、ビジネスの成功者がステアリングホイールを握ったサルーンだ。フォード・ゾディアック MkIII、オースチンA110 ウェストミンスター、ヴォグゾール・クレスタ PBをかつて所有できたのは、一定の地位にある人に限られた。

クリームのヴォグゾール・クレスタ PB、グレーのオースチンA110 ウェストミンスター、ブルーのフォード・ゾディアック MkIII
クリームのヴォグゾール・クレスタ PB、グレーのオースチンA110 ウェストミンスター、ブルーのフォード・ゾディアック MkIII

いずれも、近年は目にする機会が激減している。クレスタ PBの発表は、1962年のロンドン・モーターショー。先代のクレスタ PAがまとっていたテールフィンと曲面ガラスは時代遅れになり、「クリーンでシンプル、抑制された」姿へ衣替えを果たしていた。

エンジンは、それまでと同じ2.6L直列6気筒OHVだったが、フロントにはディスクブレーキを採用。英国価格は918ポンドからで、充実した装備が少し高めの値段を正当化した。

フォグランプやバックランプ、ヒーターだけでなく、内装はレザーで仕立てられ、天井側には時計も備わった。シガーソケットとフロントガラスのウォッシャーも標準。ルーフが塗り分けられるツートーン塗装も、お約束といえた。

南フランスを感じさせるような優雅さ

謙虚とはいえない見た目を、当時のヴォグゾールは「ほぼ完璧」だと主張した。英国の人気TVドラマへ登場させることで、認知度の向上にも務めた。

数本の映画へも登場している。1964年の「絶叫する地球 ロボット大襲撃」では、俳優のレスリー・ニールセン氏が運転し、ちょっとした活躍を見せている。

ヴォグゾール・クレスタ PB(1962〜1965年/英国仕様)
ヴォグゾール・クレスタ PB(1962〜1965年/英国仕様)

当時の自動車雑誌、モーター誌は、ヴォグゾールのフラッグシップとして価格価値の高さへ注目。AUTOCARでも、端正で気取らないスタイリングを称えている。

実はコスト削減を理由に、1961年に発売されたヴォグゾール・ヴィクター FBとドアパネルを共有していた。確かに両車には通じる雰囲気も漂うが、シャープで折り目の強いボディラインとワイドな車幅が、見る人へ強い印象を与えた。

クレスタ PBには、南フランスを感じさせるような優雅さがある。地方の経営者がヴォグゾールのディーラーでインテリアを目にしたら、感動したに違いない。大型サルーンだとしても、ご近所からは怪しい手段で大金を得た成金には見られなかったはず。

1964年にエンジンは3.3Lへ拡大。1965年にはコークボトル・ラインと呼ばれる滑らかなデザインのクレスタ PCが発表され、PBの役目は終わった。

今回ご登場願ったクリーム色のクレスタ PBは、ジョン・コングラム氏がオーナー。別のモデルの部品をイーベイで検索中に、偶然1963年式を発見したという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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