「銃撃」にも耐える水素タンク 次世代FCEV貯蔵容器 最前線の英国企業の技術とは
公開 : 2023.04.17 18:45
燃料電池車(FCEV)の水素を貯める圧力容器の製造には、高い技術力が求められます。英国企業が開発する最新の「タイプ5」は、軽量でありながら強い衝撃や高荷重に耐えられる構造となっています。
軽量な「ライナーレス」の次世代タンク技術
燃料電池車(FCEV)を手掛ける英国のヴィリテック(Viritech)社は、高強度かつ高効率な水素貯蔵タンクを開発している。同社は昨年、最高出力1000psのFCEVハイパーカー「アプリケール」を公開して注目を集めた。
このヴィリテック社に協力するのは、グラフェン強化ナノ材料のスペシャリストであるヘイデール(Haydale)社だ。ヘイデール社はスポーツカーメーカーのBACと共同で、グラフェン強化ボディパーツを開発している企業である。
今回、両社は新素材や樹脂の共同開発に取り組む。ヴィリテック社の目標は、「タイプ5」と呼ばれるFCEV用の圧力容器を開発することで、FCEVの実用性を一段と高めることにある。
水素圧力容器の設計・構造は、単にエネルギーを貯蔵するだけでなく、FCEVの実現可能性にも影響を与える。数種類のタイプ(1~4)が以前から存在する。
FCEV用として最も普及しているのはタイプ4のタンクで、ポリマーライナーを炭素繊維や熱可塑性材料で包んだものだ。ライナーは、約700bar(70MPa、大気圧の700倍)の圧力で貯蔵された水素が漏れるのを防ぐためにある。
タイプ5の圧力容器にはライナーがない。代わりに、不浸透性のグラフェン強化炭素繊維を使用し、従来のタイプよりも大幅な軽量化を実現している。
ヘイデール社は自動車分野だけでなく航空宇宙分野でも活動しており、航空機の耐雷性を高めるための導電性炭素繊維プリプレグ(炭素繊維の織物に樹脂を含浸させたもの)をすでに開発している。
現在、航空機メーカーは炭素繊維構造物の表面に銅メッシュを成形し、空中避雷針のようなものに仕立てている。ボーイング社の787型機「ドリームライナー」には、1機あたり約4トンの銅が使われていると推定される。
ヴィリテック社はまた、グラフ・プロ(Graph-Pro)という技術を使って軽量化にも取り組んでいる。自動車事故から銃撃まで、あらゆる事態に耐えうる堅牢な圧力容器を作ることは、決して簡単な仕事ではない。
大小さまざまな車両にタンクを取り付けるには、通常、フレームや別体のアタッチメントが必要で、これにより重量が増えてしまう。ヴィリテック社は、「グラフ・プロ構造容器は、このような問題を解決し、重量を大幅に削減することが可能」としている。
グラフ・プロ技術には、アプリケールの水素タンクのようにリアバルクヘッドの一部を構成する完全構造で荷重に耐えるタイプと、取り付けポイントを予め備え、フレームを追加することなく既存の車両シャシーに取り付けることができるタイプの2種類がある。
現段階での主な目的は、燃料電池パワートレインをいち早く導入する商用車向けの水素貯蔵容器を開発することだ。もちろん、乗用車においても同じ技術を活用できる。