フランスの景色の象徴に シトロエン2CV 375ccで9ps 1948年のゲームチェンジャー(1)
公開 : 2023.04.30 07:05
徹底的に合理的でありながら天才的
空冷2気筒エンジンの排気量は、たった375cc。作りは単純で、技術があれば数時間でリビルドすることができた。燃費も市街地では良好だった。
洗練性と無縁というわけではない。前後に相互接続された、ストロークの長いサスペンションはよく考えられている。しなやかに路面をいなし、サルーンのように優しい乗り心地を提供した。
薄い鉄板がプレスされたボディは隙間が大きく、ガタツキもゼロではない。凹凸を超えるとドアが音を立て、エンジンも正直うるさい。しかし、現代のコンパクトカーが揺れを抑えきれない市街地の路面を、2CVは滑らかに進んだ。
潤滑オイルを各部に吹き付ければ、印象は改善できる。パイプ内にコイルスプリングが組まれたサスペンションは、複雑な油圧ポンプと長いパイプで構成される、ハイドロニューマチックより遥かに堅牢。無頓着なオーナーでも、不具合には見舞われにくい。
フロントブレーキはドライブシャフトの内側にあるインボード・レイアウト。スポーツ走行を意識したものではなかったが、バネ下重量を抑えられ乗り心地にはプラスに働く。
フロントガラスの付け根部分には、幅の広いベンチレーション・フラップが備わる。夏場には涼しい外気を導入できる、天然のエアコンだ。徹底的に合理的でありながら、天才的でもある。
贅沢さとは無縁でも、技術者のアイデアは潤沢。優れた設計で、ドライビング体験を向上させていた。
コツが必要な遠心クラッチとシフトレバー
今回ご登場願った2CVは、アラン・ロイド氏がオーナーの1957年式。経年劣化したボディの風合いが見事だが、AZLPと呼ばれる快適性を高めた仕様だ。エンジンは425ccに拡大され、最高出力は12psへ向上している。
アランの2CVには、クラッチペダルを踏まずとも発進できる、トラフィッククラッチと呼ばれる遠心クラッチをトランスミッションに備える。実際に操作してみると、確かに機能するものの、低速域での変速との相性は良くない。
クラッチを繋ぐにはエンジンの回転数を上げる必要があり、微妙な速度変化に対応しにくい。アクセルペダルを充分に倒さないと、ギクシャクとした動きになる。
ブレーキはアシストの付かないドラム。車重が軽く、制動力は充分ある。ペダルには不満のない感覚が伴う。
ステアリングは、ラック・アンド・ピニオン式の原形で適度に正確。手のひらへ伝わる感触も多い。柔らかいサスペンションが大きなボディロールを生むが、コーナーが楽しい。
この頃のフランス車らしく、シフトレバーを動かすには少しコツが必要。変速時にはクラッチペダルを踏む必要があり、安定してキビキビと変速するには練習が求められる。