思わず本能的になる ジャガーXK120 戦後のスポーツカーを牽引 1948年のゲームチェンジャー(3)

公開 : 2023.05.06 07:05

とても自然に馴染める嬉しい驚き

ヤレが進んだ1984年にレストアへ着手。2000年代前半に作業が終了すると、ジャガー・オーナーとして本格的に活動を再開した。最近はヒルクライム・イベントにも意欲的に参加しているという。今日はグッドウッド・サーキットへ自走でやって来た。

ペダルボックスがタイトで、ステアリングホイールは大きく、ドライビングポジションは窮屈。モス社製のトランスミッションは使いにくい、などと想像していたが、実際はまったく違う。とても自然に馴染めることが、うれしい驚きだった。

ジャガーXK120(1948〜1954年/英国仕様)
ジャガーXK120(1948〜1954年/英国仕様)

シートは柔らかく、車内は広々としている。エンジンは軽快に吹け上がり、苦労することなく2速へシフトアップできる。

流麗なボディラインからイメージする通り、XK120は流れるように走る。スチール製のスパッツで隠されたディスクタイプのホイールが、しっかりパワーを路面へ伝える。

DOHCの6気筒エンジンが右足の動きに合わせて唸りを放ち、ドライバーの気持ちを高ぶらせる。回転数を合わせながら、慎重に次のギアを選ぶ。

ステアリングホイールを繊細に操れば、グッドウッド・サーキットを爽快に回れる。ロンドン郊外の一般道や、カリフォルニアの海岸線でも、同様に満ち足りた気持ちになれるだろう。

戦後のスポーツカーをリードする完成度

XK120と親しくなれば、弧を描いたフェンダーラインとボンネット越しの景色や、初期型らしいエネルギッシュなエンジンが生む、気持ちの衝動を抑えきれない。1950年代の若者が乗り移ったかのように。

2基のSUキャブレターが豪快に息を吸い、サウンドが一気に高まる。弾けるような勢いで加速していく。パワーデリバリーは滑らかで、エグゾーストノートは心地良い。ただし、シフトアップは丁寧に。

ジャガーXK120(1948〜1954年/英国仕様)
ジャガーXK120(1948〜1954年/英国仕様)

「思わず本能的になりますよね」。デイブが認める。タイミングをマスターすれば、するりとスロットにレバーが収まる。高精細な感覚で。

コーナーが迫りXK120を意欲的に侵入させていく。身のこなしは、意識が引き締まるほど軽快。挙動を読んでステアリングホイールを戻すと、アクセルペダルで姿勢を調整できる、絶妙なバランスに落ち着く。スライドしつつ、安定している。

路面からの感触が、操縦系を通じて伝わってくる。往年のクラブレーサーのようだ。

XK120は、戦後のスポーツカーをリードする完成度にあった。新しいDOHCエンジンのショーケース以上の内容といえた。商業的な基盤を作ったサルーンのMkVIIに並ぶほど、強力な流れを英国の自動車界に与えた。それは、現行のFタイプへも受け継がれている。

ジャガーKX120は、どの角度から見ても美しい。走ってみれば、心が奪われるほど素晴らしい。ライオンズの野心の高さには、感服せざるを得ない。

ジャガーXK120(1948〜1954年/英国仕様)のスペック

英国価格:1263ポンド(1948年時)/9万ポンド(約1449万円)以下(現在)
生産台数:1万2061台
全長:4270mm
全幅:1550mm
全高:1270mm
最高速度:202km/h
0-97km/h加速:10.0秒
燃費:5.7km/L
CO2排出量:−
車両重量:1295kg
パワートレイン:直列6気筒3442cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:162ps/5400rpm
最大トルク:26.9kg-m/2500rpm
ギアボックス:4速マニュアル

この続きは(4)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

1948年のゲームチェンジャー シトロエン2CV、フェラーリ166からポルシェ356までの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事