現実味を帯びてきた「遠隔運転」 英で法整備進む 事故時の責任は

公開 : 2023.04.20 06:05

離れた場所からクルマを操作する「遠隔運転」に関して、英国で法整備が進みつつあります。遠隔運転とはどのような技術なのか、また万が一の事故時の責任の所在はどこにあるのか解説します。

遠隔でクルマを運転 実現へ法整備

イングランドとウェールズの法律委員会が「遠隔運転(リモートドライブ)」に関する一連の勧告を発表したことで、英国では最近、遠隔操作による自動車の運転が話題になっている。

この技術は、何百、何千kmも離れた場所にいるオペレーター(操作者)が、道路を走る無人運転車をコントロールするというものだ。業界関係者は、法律委員会の介入を大きな前進として歓迎している。

英フェッチ社の遠隔運転オペレーター
英フェッチ社の遠隔運転オペレーター

ミルトン・ケインズで遠隔操作車両を運用するインペリウム・ドライブ社の共同設立者であるクーシャ・カヴェ氏は、法律委員会の一連の勧告について、次のように説明する。

「法律委員会は、遠隔運転が禁止されるのかと思っていた人たちに、禁止されないことを示したのです。投資家たちは、規制のリスクが下がったと確信しています」

AUTOCARは2021年、インペリウム・ドライブ社傘下のフェッチ(Fetch)の事務所を訪問し、遠隔運転技術がどのようなものか、興味深い洞察を得ることができた。この事務所から、複数のスクリーンに囲まれたオペレーターがステアリングホイールを握り、乗用車を公道で走らせる。接続は携帯電話ネットワーク経由で行われ、車両には視界を確保するためのカメラが取り付けられている。

フェッチの手掛ける事業は、オンラインで依頼を受けた顧客の玄関先まで迎えに行き、ミルトン・ケインズ中心部の好きな場所に連れて行くというものだ。要するに、クルマを所有する必要がないタクシーのような配車サービスであり、人間のドライバーを車両から排除することで、従来のタクシーよりも手頃な価格を目指している。

遠隔運転の事業化を目指しているのはフェッチだけではない。ドイツでは、ベルリンに本社を置くVay社が、「テレドライビング」と銘打った独自の技術を掲げる。Vay社は最近、ハンブルクで人間のセーフティオペレーターなしで自動車を運転する許可を得たが、これは欧州で初めてのことである。また、2月に開催された携帯通信業界最大の見本市「MWC」では、ベルリンにある車両をスペイン・バルセロナのオペレーターが操作する様子を披露した。

「遅延」への対応 オペレーターの資格は?

英国でにわかに注目を集める遠隔運転。問題点や課題は何か、またどのように解決していくのか。関係機関の姿勢や各社の対応をまとめた。

――遠隔運転の安全性はどのように確保されるのか?

スマートフォンの電波が途切れたことがある人なら、遠隔操作のクルマでも同じことが起きるかもしれないと考えるだろう。しかし、フェッチもVay社も同じアプローチでこの問題に対処している。冗長なモバイルネットワークを使用することで、あるネットワークで信号が受信できなくても、別のネットワーク経由で通信することができるのだ。

――ネットワーク上の遅延は?

英フェッチ社の遠隔運転オペレーターシート。複数のスクリーンに囲まれている。
英フェッチ社の遠隔運転オペレーターシート。複数のスクリーンに囲まれている。

この点については、懐疑的な意見もあるようだ。例えば、自動運転の開発会社である米国のファクション社は、次のように主張している。「ステアリング操作の問題点は、携帯電話ネットワーク接続時の遅延(=タイムラグ)です。人間は50~100ミリ秒のレイテンシーでも操作できるようになりますが、長時間続くと非常に疲れますし、ストレスが溜まります」

致命的な遅延が発生した場合、フェッチとVay社ではいずれも「最小リスク操縦」と呼ばれるシステムを発動し、車載技術によって自動的に走行を中止、停止させる。

――遠隔運転のオペレーターにはどんな資格が必要なのか?

オペレーターには、まず通常の運転免許が必要であることは明らかだが、遠隔運転のための免許は存在しない。これは英国の法律委員会の懸念事項でもある。そこで同委員会が提案したのが、ERDO(Entity for Remote Driving Operation)許可証で、運営会社が従業員の能力について責任を持つというものだ。

英国では、車両型式認証機関であるVCA(自動車安全証明局)がこのような制度の責任を負う可能性を示唆している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    グラハム・ヒープス

    Graham Heeps

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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