合成燃料はエンジンを救う? パナメーラ 4S E-ハイブリッドで体験 ポルシェの南米工場へ 後編
公開 : 2023.04.29 09:46
合成燃料は内燃エンジンの命をつなぐのか。ポルシェによる試験工場を、英国編集部がパナメーラで訪問。可能性を探ります。
もくじ
ー新モデルを電動化するだけでは不十分
ー水素とCO2と結合させメタノールを生成
ー供給量は不充分 製造過程にも課題
ー特別な燃料で走っていることを感じさせない
ーポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)のスペック
新モデルを電動化するだけでは不十分
ポルシェで合成燃料プロジェクトを率いるマルコス・マルケス氏は、内燃エンジンをこよなく愛している。経歴を振り返ると、アウディの5気筒ターボエンジンや、V型10気筒エンジンを積んだアウディR8などが含まれている。
860ps以上を狙った、5.0L水平対向8気筒ツインターボにも関わったという。話題がずれるが、こちらにも興味が湧いてくる。
既にポルシェは、ドライバーズカーと呼べるバッテリーEV(BEV)で、開発競争のトップにいる。それでも、合成燃料へ積極的に関わる理由を彼にうかがった。
「それがポルシェの常です。問題解決のために努力し、居心地の良い場所に留まろうとはしません。燃料はこれまでのビジネスとは異なるため、強力なパートナーを探し、助けてもらっています。相手にとっても、技術に確証を持たせることへつながっています」
現在の地球上には、13億台の内燃エンジン車が既に走っている。近未来の新モデルを電動化するだけでは、環境保護に充分な量のCO2を削減できない。民間の航空機は、2022年だけでも1秒当たり1万8000Lの航空燃料を燃やして、空を飛び交っている。
合成燃料は、ジェットエンジンにも対応できる。993型の911 カレラでも使えることを、ポルシェは実証済みらしい。このプロジェクトは、努力するに値するものだと理解できるだろう。
水素とCO2と結合させメタノールを生成
ハルオニ工場の計画は2021年に発表され、2022年12月から本格稼働が始まった。ただし、トタルエナジーズ社のように有機物を利用したバイオエタノールなどではなく、風力が生み出す電気を利用して、液体の燃料を生成している。
電気で水を分解し、水素を取り出しCO2と結合させる。その結果、eメタノール(CH4O)と呼ばれる合成燃料が生み出される。これは原油に相当し、エクソンモービルの工場で水素化処理と精製過程を経て、内燃エンジンで使える燃料になる。
オクタン価は、100RON以上も可能だという。2023年には、ハルオニ工場で作られた合成燃料が、ポルシェのワンメイク・スーパーカップ・レースで使用される計画にある。
1回のレースで平均5000Lを消費するそうだが、工場の生産能力は年間13万L。充分まかなえるようだ。
再生エネルギーで生み出された電気を遠くまで送電することは、コストが掛かり効率も悪い。だが風の強い辺境の地で作られた、エネルギー密度が高い液体燃料は輸送が容易。合成燃料のプロジェクトは、他の地域でも計画が進められている。
2026年には、オーストラリアのタスマニア島でもHIF社の工場が稼働する。ここでは風力と太陽光を用いて発電し、年間1億Lの供給が目指されている。チリにも別の工場が計画している。
アメリカ・テキサス州では、ひと足先に2024年に稼働へ移る。年間7億5000万Lの生産能力を備えるというが、こちらの電力は原子力発電が担うとのこと。