合成燃料はエンジンを救う? パナメーラ 4S E-ハイブリッドで体験 ポルシェの南米工場へ 後編

公開 : 2023.04.29 09:46

供給量は不充分 製造過程にも課題

果たしてこれから先も、罪悪感を抱かずにレブリミッターまでエンジンを回すことが許されるのだろうか。叶うなら素晴らしいが、まだ道筋は盤石とはいえない。

HIF社の全工場がフル稼働を始めても、作られる合成燃料は年間で10億Lにも届かない。グレートブリテン島を走るクルマだけでも、年間460億Lのガソリンや軽油を燃やしている。他社の計画を合わせても、現在の消費量に匹敵する生産は難しい。

ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)
ポルシェパナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)

合成燃料の製造過程にも課題がある。今のところ、BEVに充電して1kmを走れる電気より、内燃エンジン車が1kmを走れる合成燃料を作る方が、電気の消費量は大きいのだ。

また、地球規模では違ったとしても、輸入された合成燃料を燃やせば、国で排出されるCO2の量は減らない。少なくとも、一般的なクルマがBEVへ転換していく大きな流れは変わらないだろう。

HIF社の合成燃料は、駆動用バッテリーでは対応できない輸送機械で利用される可能性が高い。航空機や大型の船舶など。

既存の内燃エンジン車に対しては、主要な石油メーカーが購入し、ガソリンなどにブレンドされることになるはず。ポルシェ自身も、合成燃料をユーザーへ提供する戦略は今のところ立てていない。

先述のカップカー・レースや、エクスペリエンス・センターなどで利用されるようだ。イメージの旗振り役として。

とはいえ、筆者が運転するパナメーラでは合成燃料が燃えている。ハルオニの工場で1度給油し、壮大なトーレ・デル・パイネ国立公園を目指す。

特別な燃料で走っていることを感じさせない

右足へ力を込めれば、システム総合で559psというパワーが放たれる。それを受け止めるのは、オールシーズンタイヤ。実質的にCO2を排出していないという事実が、運転する気持ちへ更なる充足感を与える。

BEVだとしても、その電気は石炭やガスが生み出している可能性はある。原発はリスクが大きい。再生可能エネルギーで作られた合成燃料は、まったく違う。

ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)
ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)

舗装されたばかりの峠道からそれ、なだらかに広がるグラベルへ進む。エアサスペンションで車高を持ち上げ、パナメーラは豪快に水しぶきを上げる。V6ツインターボエンジンは、特別な燃料を燃やしていることを実感させない。

オクタン価97RONの合成燃料でも、3.0Lユニットは滑らかに吹け上がる。サウンドもレスポンスも、筆者が以前から知っている通り。垂涎の911 ダカールでも同様だろう。

泥まみれになりながら、パナメーラのウォッシャータンクの大きさには驚いた。フロントガラスへ何度も吹き付けても、空にはならない。光沢のあるチェリーメタリックの塗装は、マット仕上げのパタゴニア・カラーになってしまったが。

合成燃料は魅力的だが、楽観的になることはまだ難しい。とはいえ再生可能エネルギーで生産され、ポルシェで機能することが確かめられたことは、大きな朗報といえるかもしれない。内燃エンジンへ、僅かだとしても、可能性をもたらすことは間違いない。

ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)のスペック

英国価格:10万5300ポンド(約1695万円)
全長:5049mm
全幅:1937mm
全高:1423mm
最高速度:297km/h
0-100km/h加速:3.7秒
燃費:35.7-45.5km/L
CO2排出量:50-64g/km
車両重量:2225kg
パワートレイン:V型6気筒2894ccツイン・ターボチャージャー+電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:17.9kWh
航続距離:54km
最高出力:559ps(システム総合)
最大トルク:76.3kg-m(システム総合)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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