ミニ誕生のキッカケを創出 モーリス・マイナー 1948年のゲームチェンジャー(5)
公開 : 2023.05.07 07:05
安価で小さなクルマでも誇らしくあるべき
優れた印象は、容姿にも現れている。同時期のシトロエン2CVと比べると、上級感は間違いない。クロームメッキが随所に散りばめられ、塗装の光沢は深く、ダッシュボードも美しく仕上げられている。
手頃な価格の小さなクルマでも誇らしくあるべきという、英国車としてのプライドを感じる。ミッドセンチュリーの英国人気質にも通じるのだろう。
918ccの4気筒エンジンは戦前に設計されたサイドバルブで、上品とはいえない。イシゴニスは水平対向4気筒を希望したが、モーリスの上層部が頭を縦に振ることはなかった。スーパーチャージャー付きの2ストローク・ユニットは、実現しなかった。
とはいえ、モーリスとオースチンはBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)として1952年に合併。今でも傑作として評価されるAシリーズ・エンジンの搭載が可能になり、開発が無駄になることは避けられたといえる。
反面、戦前のモーリス・エイトから受け継いだサイドバルブ・エンジンは信頼性に優れ、マイナーの評価を高めることにつながった。当時は、時代錯誤に古い設計でもなかった。
1950年代には、まだサイドバルブ構造が珍しくなかった。フォードは1959年までアングリアに採用していたほど。
1952年にマイナー・シリーズIIへ搭載されたAシリーズは、803cc。動力性能は向上しておらず、合理主義とみなされ、当時の試乗テストでは望むような評価を得られていない。1956年のシリーズIIIでは948ccと1098ccへ拡大され、歓迎された。
ミニ・マイナーなどの開発にもつながった
グリフィスのマイナーもサイドバルブ・エンジン。市街地の速度域では活発にボディを動かし、60km/h前後までの加速ではパワー不足を感じない。シフトフィールも好ましい。
現代の基準でいえば間違いなく遅い。それでも、グレートブリテン島に高速道路が敷設されたのは、マイナーが誕生してから10年後のこと。少なくとも80km/h前後でのクルージングは、まったく問題ない。
洗練されたサスペンションとステアリングが生むマナーは、今回の6台では最も親しみやすい。気張ることなく運転できる。
革新性では、際立つ部分はないかもしれない。しかし、当時の優れた自動車技術を融合させ、優れたパッケージングと信頼性で仕立て、手頃な価格で提供したという功績は大きいだろう。
モーリス・マイナーは1971年までに160万台が生産され、可愛らしいスタイリングは今でも世界中で人気がある。技術者のイシゴニスの認知度を高め、ミニ・マイナーやADO16という、ベストセラーの誕生にもつながった。
英国車のレガシーとして、見過ごせない存在だと思う。
協力:モーリス・マイナー・オーナーズクラブ
モーリス・マイナー MM(1948〜1953年/英国仕様)のスペック
英国価格:359ポンド(新車時)/1万5000ポンド(約241万円)以下(現在)
販売台数:161万9958台(マイナー合計/1948〜1971年)
全長:3759mm
全幅:1524mm
全高:1524mm
最高速度:99km/h
0-97km/h加速:36.5秒
燃費:14.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:749kg
パワートレイン:直列4気筒918cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:27ps/4400rpm
最大トルク:5.8kg-m/2400rpm
ギアボックス:4速マニュアル