サイズが生む敏捷性に魅了 ポルシェ356 ブランド初の量産車 1948年のゲームチェンジャー(6)

公開 : 2023.05.07 07:06

最高出力を踏まえれば期待以上のスリル

アクセルレスポンスが興奮を誘う。ペダルの角度に応じて、エンジンが変化していく過程が楽しい。徐々にエネルギーが高まり、最高出力の小ささを踏まえれば驚くほど。ドライバーの背中がシートへ押さえつけられる感覚も、僅かにある。

さらに356を際立たせていたのが、ステアリングフィールや操縦性。職人の技術の結晶といえる一体成型ボディが素晴らしい剛性を生み、有能なシャシーを機能させる素地を作っている。ドアやボンネット、エンジンリッドの継ぎ目は、ピシッと揃っている。

ポルシェ356 プレA(1948〜1955年/欧州仕様)
ポルシェ356 プレA(1948〜1955年/欧州仕様)

この頃のスポーツカーでは珍しくなかった、シャシーのしなりや振動とは無縁。スプリングレートもこの頃としては高く、コーナーの縁石をかすめるとレーシングカーのように振動を伝える。ボディロールもしっかり抑え込まれている。

バケットシートが身体を保持し、フラットで速く、素晴らしいドライビング体験を堪能できる。荒れた路面で、足まわりが暴れない限り。

リアエンジン・レイアウトのおかげで、ステアリングホイールは軽いが、コミュニケーション力には唸らされる。高速域では軽すぎてドライバーを戸惑わせる可能性もあるが、初期の356 プレAにはそれ以上まで加速させる余力がない。

コンパクトさが生む敏捷性へ魅了される

ポルシェはその後の911で大成功を収めるが、世界中のマニアが356へ魅了される理由こそ、このコンパクトさが生む敏捷性。グッドウッド・サーキットを走らせれば、そのタイトな身のこなしに惹き込まれる。

リア寄りの重量配分は感取できるものの、初期の911より自然で回頭性にも優れる。アクセルペダルを急に緩めても、振り子のように急なオーバーステアへ転じる気配はない。ポルシェの特性に慣れていないドライバーでも、比較的すぐに馴染めるはず。

ポルシェ356 プレA(1948〜1955年/欧州仕様)
ポルシェ356 プレA(1948〜1955年/欧州仕様)

意欲的にコーナーへ侵入し、出口では強力なトラクションを発揮できる。ポルシェがバランスを整えるのに時間を要した911より2気筒少ないぶん、356は扱いやすい。

新しいスポーツカー・メーカーの、成功の鍵を握っていた356。1948年から1966年の17年という間、ポルシェ唯一の量産車としてブランドを支える存在だったが、不足なく頼もしい大黒柱であったことは間違いないだろう。

協力:エクスポート56社

ポルシェ356 プレA(1948〜1955年/欧州仕様)のスペック

価格:1万4500スイスフラン(新車時)/45万ポンド(約7245万円)以下(現在)
販売台数:7万7766台(356合計/1948〜1966年)
全長:3870-4010mm
全幅:1660mm
全高:1220-1320mm
最高速度:140km/h
0-97km/h加速:23.5秒
燃費:12.4-14.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:680kg
パワートレイン:水平対向4気筒1131cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:51ps/2600rpm
最大トルク:5.7kg-m/2400rpm
ギアボックス:4速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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