10分でEVを充電できる英国企業の最先端技術 バッテリー寿命に影響なし 「磁場」活用
公開 : 2023.04.26 06:25
10分間で「240~360km分」のエネルギーを充電できるという革新的な技術が、英国の新興企業によって開発されています。既存の充電システムと併用でき、充電時間短縮のため10年以内の普及を目指しています。
磁場によって充電時間短縮
EV(電気自動車)の充電時間を半減させる技術が、英国で10年以内の普及に向けて開発中だ。
新興企業Gaussionの創設者兼CEOであるトーマス・ヒーナン氏は、バッテリーを充電する際に磁場を利用するMagLiB技術について、「10分以内に240~360km分」を充電できると説明している。
仕組みはワイヤレスの携帯電話充電器と同様で、地中に設置されたパッドを介して磁場を展開する。ヒーナン氏によると、既存のEVや充電システムと併用できるため、公共充電ネットワーク全体で使用されれば、EVドライバーの生活を一変させ、充電のボトルネックを減らすことができるという。
MagLiBは、充電中のリチウムイオンバッテリーに特殊な磁場を外部から作用させる。これにより、バッテリーの寿命に影響を与えることなく、充電時間を大幅に短縮することができる。
現在進行中の試験(最初のデモ機は2025年に完成予定)では、急速充電時にMagLiBを使用することで、バッテリー寿命が実際に改善されることがわかったそうだ。
「当社の技術を使えば、バッテリーの寿命は同等かそれ以上になり、ほとんどの場合、大幅に改善されることがわかりました」
「1時間で0%から100%まで充電できるように設計されたバッテリーセルを、10%から80%まで10分以内に充電しました。これを1000回繰り返したところ、300サイクルしか持たないはずの寿命が大幅に延びたのです。実際、限界には程遠い状態だったので、もっと続けられたかもしれません」
磁場のエネルギーは、EVの駆動用モーターの磁石などに比べると比較的穏やかで、「家庭用の冷蔵庫の磁石と同程度」とヒーナン氏は言う。
バッテリーの製造コストダウンも期待
MagLiBの磁場は、充電中のイオンの移動を容易にするという。
「イオンは、充電中にカソードからアノードへと移動します。しかし、イオンは邪魔なものが何もない状態で一直線に移動するのではなく、粒子や他の物質の周りを蛇行しながら移動しなければなりません」
「当社は、イオンが乗り越えなければならない障害を調べ、特殊な磁場を用いて、その影響を軽減しています」
通常、急速充電に必要な大電流は、バッテリーの損耗を避けるために下げなければならない。MagLiBはバッテリー内での抵抗を減らすことで電流を維持でき、充電時間の大幅な短縮につながる。
時間短縮だけでなく、バッテリーのコストダウンも期待されている。バッテリーの製造には、250時間以上かかる充放電の工程があり、製造コストの30%を占めると言われている。35GWh規模のギガファクトリーでは、この時間をわずか1%短縮することで、年間1000万ポンド(約16億7000万円)を節約できるという試算がある。
燃料電池におけるイオンの挙動を研究してきたヒーナン氏は、2014年にUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)で化学工学の博士号を取得したのとほぼ同時期に、最初のアイデアを思いついた。彼は、同じ卒業生でバッテリーの専門家であり、Gaussion社の最高執行責任者であるチュン・タン氏と手を組み、UCLの教授であるポール・シアリング氏とダン・ブレット氏が2人をサポートした。出願中の特許には、同技術の発明者として4人全員の名前が正式に記載されている。
このプロジェクトは、10万ポンド(約1670万円)のファラデー研究所起業家フェローシップの支援を受けて始まり、スマートウォッチ用セルから最終的にEV用セルへと技術を発展させることができた。