マクラーレン・オートモーティブ新CEO、その視線の先にあるのは? スーパースポーツカービジネスの進む道

公開 : 2023.04.28 07:25

デザインの話 新たな1歩は?

デザインの新しい方向性について、もう少し具体的に教えて欲しいとリクエストすると、「まあ、それは次の製品ができあがったときに説明しますよ」とライターズは答えたが、それでもなお私が食い下がると、こんなヒントをくれた。

「いままでマクラーレンのデザインはForm Follows Function(形態は機能に従う)をコンセプトとしてきましたが、私はこれをFunction Creates Beauty(機能は美しさを生む)と解釈するつもりです」

ラインナップ、デザインに加え、品質についての取り組みも進めている。
ラインナップ、デザインに加え、品質についての取り組みも進めている。    マクラーレン・オートモーティブ

つまり、いままでのやや理性的な方向性よりも、よりエモーショナルなものに微調整するという意味か?

「そう受けとめていただいて構わないと思います」

モデル・ラインナップ、テクノロジーによるヒエラルキー、デザインの見直しとともにライターズが重要と考えているのが品質の向上だ。

「これについては否定できないと考えています」とライターズ。

「私が着任したとき、すでに開発陣は品質改善に取り組んでいましたが、そこからさらに、アルトゥーラの供給をどうすべきかについて検討しました。これは非常に難しい判断でしたが、私たちは必要な投資を行い、これを実行しました。アルトゥーラの生産はすでに再開していますが、最初の1台を納品したお客さまからは、非常に高い評価を戴いています」

ライターズは明言しなかったものの、この文脈から類推するに、アルトゥーラは一時、生産を中断して品質の改善に取り組んだようだ。おそらく、今後、日本に入ってくるのは、この品質が改善されて以降のアルトゥーラであろう。

最後に、マクラーレンのレース部門であるマクラーレン・レーシングとの連携について訊ねた。

マクラーレンにおける技術のコアは…

「これまで以上に連携を深めていくつもりです。そしてレースにおけるヘリテージを、ノスタルジックにではなく、現代的、もしくは未来的な手法で再解釈していきます。過去60年間に行なわれた活動は、革新的で先駆者的で、本当に素晴らしいものでした。これらを、いかに将来を見据えながら進化させていくかが、私たちに与えられた課題です。これは主にマーケティングに関連することですが、テクノロジーの領域でも、同じように重要です」

そう前置きしてからライターズが語り始めたのは、マクラーレンのキーテクノロジーともいうべきカーボンコンポジットに関することだった。

日本のマクラーレン・オーナーが集結するトラックデイ・ジャパン。昨年の開催では160台が集まり過去最多の参加台数を記録した。世界的に見てもこれほどマクラーレンが集まるイベントは珍しい。
日本のマクラーレン・オーナーが集結するトラックデイ・ジャパン。昨年の開催では160台が集まり過去最多の参加台数を記録した。世界的に見てもこれほどマクラーレンが集まるイベントは珍しい。    マクラーレン・オートモーティブ

「私たちはF1マシンに使われているコンポーネントをそのままロードカーに転用するわけではありません。私たちの第一作であるMP4/12Cを見てください。これは、マクラーレンのF1マシンであるMP4で用いられたカーボンモノコックをロードカーに応用したものです。もちろん、F1マシンと同じモノコックではありませんが、テクノロジーは共通です。なお、すべてのモデルにカーボンモノコックを用いているスーパースポーツカーブランドは世界中でマクラーレンだけです。同様の強みはエアロダイナミクスの分野についても存在します。こうしたマクラーレン・レーシングとマクラーレン・オートモーティブの協力関係は、マクラーレンの今後に大きな可能性をもたらすと考えています」

F1のテクノロジーから生まれたスーパースポーツカー、マクラーレン。その魅力と強みは、ライターズをCEOに迎えて一段と強力に発揮されることになりそうだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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