あえての不完璧ボディ アストン マーティンDB5 普段使いのこだわりレストア 前編

公開 : 2023.05.13 07:05

とある倉庫に41年も眠っていたDB5。臆せずに普段使いできるようレストアされた1台を、英国編集部がご紹介します。

あえて完璧ではない状態を探した

自分の所有物へ、資産的な価値が不意に生まれる場合がある。骨董品や美術品などとは違って、クルマは現実的に使えるかどうかでも価値が左右される。とはいえ、羨望を集めるようなクラシックカーには高値がつくことが多いが。

混雑した市街地を、希少なアストン マーティンDB5で走りたいと考えるドライバーは多くないはず。狭い駐車場や入り組んだ路地を想像すれば、怖くて気が進まない。郊外でも、不意に現れる砂利道が不安だ。

アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)
アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)

ローマン・パープルの塗装が少しヤレた、ロドニー・マクマホン氏がオーナーのDB5は、本来の能力を発揮させることを前提にレストアされている。コンクール・デレガンスでの栄えある受賞ではなく、彼は走ることへ価値を見出している。

「アストン マーティンは、もちろん好きですよ。いくらかね」。と、ロドニーは英国人らしく、あえて控えめに自身の気持ちを表現する。

DB4とDB6DB7、V8ヴォランテ、ラピードという、そうそうたるアストン マーティン・コレクションを所有している。このDB5は、最近その1台に加わったそうだ。

DB4とDB6は美しいショー・コンディションを保っており、気軽に乗ることは難しかった。そこで英国の名門ブランドを得意とするガレージ、RSウィリアムズ社へDB5の購入を相談した時、完璧ではない状態のものを探してほしいと頼んだという。

41年も倉庫に止まっていたパープルのDB5

「レストアされた姿は美しいのですが、小さなダメージすら与えられないことが問題になります。駐車場で隣のクルマのことを心配する必要がなかったり、小石で塗装が剥げても、味の1つになるようなクルマが良かったんです」。ロドニーが笑みを浮かべる。

そこでRSウィリアムズ社が発見したのが、41年間も倉庫のなかに止まっていた、パープルのDB5だった。珍しい色でボディが塗装され、驚くほどのオリジナル状態が保たれていたが、久しく公道を走っていなかった。

アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)
アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)

「ある兄弟が所有していたクルマでした。放置して腐らせるようなことはなく、保存状態は悪くありませんでした。少しメンテナンスをして、1年弱はそのまま運転できたほどです」。ロドニーが振り返る。

倉庫にしまわれていた理由は定かではない。だが、この年代のアストン マーティンとしては走行距離が長く、積極的に乗られてきたものの故障に見舞われ、修理されないまま時間が過ぎたのかもしれない。

ローマン・パープルの塗装は、走行距離を重ねる過程で傷んでいた。艶は全体的に失われ、変色している所もあった。飛び石で下地がむき出しになっている部分も見られた。それでもボディにはほぼ腐食がなく、パネルはピンとしていた。

今でもそんな見た目を保っているが、実は多くの手間がかけられている。「ボディパネルの内側にサビがありました。1・2年の作業で、車検を通過できる状態には仕上がりませんでした」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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