SSで鍛えたホットハッチ プジョー106/205/306 ラリー プライベーターの獅子 後編

公開 : 2023.05.14 07:06

英国限定500台だった306 ラリー

106 ラリーの後を追うように、1994年にひと回り大きい306 S16が登場。英国では、GTI-6として売られた。このクラス上のホットハッチもヒットし、装備を簡略化した306 ラリーが1998年に導かれる。

生産は英国限定で僅か500台だったものの、熱い走りを好む小さな市場を満たした。安全性を多少犠牲にし、保険料は上昇したが。

プジョー306 ラリー(1998〜1999年/英国仕様)
プジョー306 ラリー(1998〜1999年/英国仕様)

パワートレインのアップデートは、ほぼなし。エアコンとパワーウインドウ、リアシートの分割構造、防音材を省略することで、65kgのダイエットを果たしたが、基本的にGTI-6と変わりはなかった。

エンジンは2.0LのXUユニットで、16バルブ・ヘッドが載り169psを発揮。トランスミッションは6速マニュアルが組み合わされた。

306の特徴といえたのが、パッシブステア・リアアクスルを備えたリアサスペンション。当時のホットハッチとして、最高の操縦性を叶えている。

世界ラリー選手権で暴れた306 マキシのように、306 ラリーも英国のラリーステージで強さを証明。プジョータルボ・スポーツ部門のトリコロールカラーが各部へあしらわれ、GTI-6より695ポンド安い価格設定でファンの期待に応えた。

今回ご登場願ったレッドの306 ラリーは、トム・コリンズ氏がオーナー。2018年に購入し、自動車イベントだけでなく、通勤でも日曜日のドライブでも素晴らしい体験を与えてくれるという。

最近は価値が上昇し、乗る機会を制限しているそうだ。現在、英国でナンバー登録されているのは89台しかない。205 ラリーの約40台と比べれば多いけれど。

山道を飛ばす以上に、能力の幅が広いプジョー

「自分はプジョー306で運転を身に着けたようなものです。これで5台目。結婚し、家族が増えてセカンドカーが必要になり、プジョー・オーナーへ復帰する絶好のタイミングだと考えました」。トムが笑顔を浮かべる。

ドライビングポジションはやや高め。路面の凹凸を、しなやかなサスペンションが巧みに均す。コーナーでは不備なく車重を制御する。チャレンジングなルートを飛ばすだけではない、能力の幅が広いプジョーだ。

プジョー306 ラリー(1998〜1999年/英国仕様)
プジョー306 ラリー(1998〜1999年/英国仕様)

発進させるとすぐ、洗練性へ気付ける。ベンチタイプのシートが備わる後席も、空間にはゆとりがある。ギア比がロングで、クルージングは安楽。エンジンのサウンドも控えめ。中回転域のトルクを引き出せば、唸りを伴いながら鋭く速度を高める。

操縦特性は、いかにも前輪駆動らしい。フロントタイヤを軸とする、繊細なバランスを隠さない。ラリーマシンのように、リアタイヤを盛大に振り回せる。さらに65kg軽くすれば、実際のスペシャルステージでも活躍できそうに思える。

3世代続いた「ラリー」だったが、プジョーは勢いを増すホットハッチ・カテゴリーから手を引いてしまった。ルノー・クリオ(ルーテシア) 182トロフィーが、フランス勢としてそのバトンを繋いだといえるが、残念な結果だと思う。

もっとも、実際のラリーステージでも、前輪駆動ハッチバックの時代は終わりを告げていた。勝利の名声をショールームでの訴求力へ展開できるのは、四輪駆動の次世代へシフトしたのだった。

協力:プジョー・スポーツ・クラブUK

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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