「eフューエルは社会に混乱をまねく」 自動車大手ステランティスCEO、EU法案に懸念

公開 : 2023.05.04 19:25

ステランティスのカルロス・タバレスCEOは、EUが計画する合成燃料「eフューエル」の容認について懸念を示しました。eフューエルは電動化の推進を妨げ、自動車産業に大きな混乱を招くおそれがあると指摘しています。

eフューエルは歓迎 だが法規制が混乱を招くおそれ

ステランティスのカルロス・タバレスCEOは、EU(欧州連合)に対し、自動車産業の安定性を守り、「混乱に混乱を加える」ようなことをしないよう呼びかけた。

EUは2035年以降にエンジン車を実質的に禁止する法案において、合成燃料「eフューエル」を使用する場合に限りエンジン車を容認する計画だ。しかし、タバレス氏は、ヴォグゾールの英ルートン工場を訪問した際にAUTOCARの取材に応じ、このEUの計画に懸念を示した。

ステランティスのカルロス・タバレスCEOは、今後のeフューエル規制の明確化を求めている。
ステランティスのカルロス・タバレスCEOは、今後のeフューエル規制の明確化を求めている。

新車販売がEV(電気自動車)に全面移行したとしても、14億台のエンジン車が路上を走ることになるため、タバレス氏はその動力源としてeフューエルを歓迎すると述べた。しかし、今後20年間の投資計画が決定された矢先に、eフューエルに関する法律が拡大されると、バッテリーEVに向けた規制の道筋を台無しにすると主張している。

タバレス氏は、eフューエルが本当にカーボンニュートラルであるかどうか、コストを劇的に下げられるかどうかについて、「第一のシナリオは、eフューエルがパラダイムを壊さないというものです」と述べた。「その場合はわたし達は安定し、EVを推進し続けることになります」

「第二のシナリオは、パラダイムを破壊してしまうというものです。その場合、わたし達はどうすればいいのでしょうか? 2035年の禁止まで、まだ12年あります。もし、eフューエルの製造コストを大幅に削減する方法が見つかったら?」

「これらの疑問に対する答えはありません。しかし、これがわたし達の抱えている大きな問題なのです。今の戦略を実行するには、20年必要です。その20年の間に、『社会にとってより低コストで、地球にとってより良い結果をもたらし、実行がより簡単なソリューションを見つけた』という画期的な発見がなされない可能性はどれくらいあるのでしょうか?」

タバレス氏の主張は、政治家によるテクノロジーを無視した規制に反対するものであり、排出量を減らすには別の方法があるというものだ。

「独断的な意見ではありません。わたし達は100年もの間、テクノロジーの微調整に取り組んできたのです。それが突然、外の世界から、最適化する時間が非常に限られている真新しい技術で同じ効率を実現しろと言われるのです」

「政治家には尊敬の念を抱いていますが、彼らが本当に耳を傾けているかどうかはわかりません。わたしは、意見を共有したいだけで、誰かを責めているわけではありません。政治家は難しい仕事だと思いますから、彼らには敬意を表します。しかし同時に、誰も難しい問いかけをしないのであれば、誰がするのでしょう?」

「わたしはEVに全力投球し、ステランティスが最高のEVメーカーであることを世界にアピールしています。与えられた規制の枠組みの中で、全力でそのゲームに取り組んでいるんです。ただ、この規制の枠組みは、社会にとってベストなのか? 地球にとってベストなのか? それについては本を1冊書けるでしょう」

「eフューエルについては、念のため、ステランティスのエンジンが対応しているかどうかを確認中です。今は、eフューエルが本当にカーボンニュートラルであること、いつかコストが同等になることをステークホルダーに実証してもらおうと考えています」

「面白いもので、政治的な観点からは彼らは何と言うでしょう? すぐに『金持ちのための燃料だ』という “広報活動” を始めるでしょう。それはとても魅力的な広報活動で、金持ちのためだと言えば、誰もが『ああ、わかった、気にしない、金持ちのものだ』と言うでしょう」

「ブレイクスルーがあったらどうするのか? ギガファクトリーをどうするのか? わたし達が業界として行ってきた変革はどうするのか、誰がそのお金を払うのか? リスクを察知した政治家たちは、『いや、別に我々は押し付けたわけではない』と言い始めます。何を言っているのか。これは、彼らが提起すべき問題なのです」

タバレス氏は、ステランティスがどのような規制を受けようとも生き残り、成長していくことに何の懸念もないと述べた。しかし、彼が懸念しているのは、法規制の変更によって社会が混乱し、数百万人を雇用する巨大産業が安定を失うことである。

「わたしは社会のこと、欧州のこと、西洋のことを心配しています。今後20年間、すべてが順調に進むという考えは大きな賭けになります」

ステランティスは2038年までにCO2排出量「実質ゼロ」の実現に取り組んでおり、2019年以降、すでに排出量を30%削減したという。来年までにステランティスの新車ポートフォリオの半分をEVにするというが、それが販売台数の半分に相当するかどうかは「顧客が決めること」であるとした。これも、価格的な理由からまだEVに対する需要がないことを意味している。

タバレス氏は、次期排出ガス規制ユーロ7への対応に向けた投資を続けるが、EV化を重視するため、「最小限のリソース」の投入しか考えていないようだ。

「今、希少なリソースをユーロ7に投入すると電動化の妨げになります。それは果たして意味があるのでしょうか? それとも迷いの表れなのでしょうか?」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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