速さで勝る フォード・フォーカス ST 楽しさで勝る トヨタGR86 比較試乗 前編
公開 : 2023.05.13 09:45
金額を上乗せし転売されるGR86
一方、フォーカス STトラックパック以上に供給台数が限られているのが、トヨタGR86。本来ならずっと安く購入できるクーペなのだが、英国への2年間ぶんの割り当て台数が約90分で売り切れてしまったため、状況は大きく違ってしまった。
2022年4月14日の発表時点では、6速MT仕様で2万9995ポンド(約482万円)、6速AT仕様で3万2085ポンド(約516万円)に英国では設定されていた。ところが欧州の安全規制に対応できないことが理由で、販売期間は短く制限されていた。
トヨタの価格設定や台数の読みは、少し低すぎたのかもしれない。注文に成功した幸運な人のなかには、資本主義社会に生きる者らしいことをした。金額を上乗せし、転売するようになったのだ。
英国の中古車市場を確認してみると、納車後に殆ど運転されていないであろう走行距離のGR86が、執筆時点でも3台が売られている。そのいずれにも、4万ポンド(約644万円)近い値段が付けられている。
納車後に約3000km走った例も、別に発見した。多少は運転を楽しもうという意識があったのかもしれない。値段は3万7000ポンド(約595万円)だ。筆者が選ぶなら、こちらにするだろう。売り手にも、比べれば少しだけ好感を抱ける。
英国には、GR86に乗りたくても叶わない若者が沢山いる。トヨタは英国へ追加導入する可能性をほのめかしているが、同様な結果を招く可能性は高い。
42.7kg-mの太いトルクを3000rpmから発生
筆者は、GR86がフォーカス STトラックパックに近い速さなら面白いと考えていた。最高出力は234ps対280psで後者の方が勝るが、車重は1276kg対1437kgで前者の方が軽い。パワーウエイトレシオでは、最高出力の差ほどの違いはない。
GR86が搭載するエンジンは、2.4Lの自然吸気・水平対向4気筒。1t当たりの馬力は183psで、フォードの1t当たり194psへ接近する。滑らかなクーペボディで前面投影面積は小さく、後輪駆動だから加速時のトラクションも得やすい。
これらの事実から、フォーカス STトラックパックに劣らない速さを期待していた。そうすれば、価格にも納得しやすいだろう。だが、実際は違った。
数字として確かめるため、ラップタイムを計測した。やや路面が湿ったコンディションで、GR86はアングルシー・サーキットを1分52.5秒で周回。フォーカス STトラックパックは、1分50.3秒でこなした。
0-100km/h加速の時間は、GR86が6.3秒で、フォーカス STトラックパックが5.7秒。後者が積む2.3L 4気筒ターボエンジンはロングストローク型で、42.7kg-mという太いトルクを3000rpmから発生する。最高出力も5500rpmで達し、引き出しやすい。
タイヤは性能重視のピレリで、サイズは235/35 R19とワイド。電子制御のリミテッドスリップ・デフが組まれ、巧妙なサスペンションと相まって確実に素早い。
この続きは後編にて。