速さで勝る フォード・フォーカス ST 楽しさで勝る トヨタGR86 比較試乗 後編
公開 : 2023.05.13 09:46
台数が制限され、プレミア価格で取引される英国のGR86。サーキットへ軸足を振ったフォーカス STとの比較で、魅力を探りました。
目をみはる流暢な身のこなしと能力の深さ
フォードは、シャシー・チューニングを理解している。コーナリング中にアクセルペダルを緩めたり、ブレーキペダルを踏んだ時に発生する、タックインを特長の1つとして誇っている。
同社がこれまで生み出してきた秀抜なホットハッチのように、新しいフォーカス STトラックパックはコーナーを旋回していく。回頭性に優れる動的特性は、楽しいドライビング体験を生む要素の1つになる。
最新のフォーカス STの場合、ステアリングもクイックでレスポンシブ。操舵感はやや重めで、一生懸命操りたいというドライバーの心を後押しする。
つま先でくるりと回転するように、フロントタイヤを軸にリアアクスルを左右へ振り回せる。アングルシー・サーキットのコーナー出口では、ターボノイズを響かせながら豪快に加速していける。
洗練されたダンパーの減衰力がトラクションを担保し、活気あるステアリングが細やかな操縦性を可能にしている。自然と気持ちが高ぶる。同僚のリチャード・レーンは、バックミラーに映るトヨタGR86が徐々に小さくなっていく事実へ気づいているだろう。
今回は招聘できなかったが、ホンダ・シビック・タイプRの方が能力は高くシリアス。現実的な予算で選べる、ポルシェ911 GT3だと表現してもいいだろう。だが、フォーカス STトラックパックの流暢な身のこなしと能力の深さにも、目をみはるものがある。
ドライバーを惹き込む意欲的な回頭
トヨタの水平対向4気筒エンジンは自然吸気で、ショートストローク。高回転型な一方、低回転域でのトルクは細い。最高出力には7000rpmで到達する。 25.4kg-mの最大トルクも、3700rpmまで引っ張って得られる。
リアアクスルにはリミテッドスリップ・デフが組まれ、215/40 R18という細めのサイズのミシュラン・パイロットスポーツ4タイヤが路面を蹴る。動力性能には、明確な開きがある。
むしろ、GR86がフォーカス STトラックパックに2秒差まで詰めたことを称えるべきかもしれない。トヨタが2代目を明確に速くしたいと考えたのなら、これらの構成は選ばなかっただろう。
正確性やバランスが高く、研ぎ澄まされた楽しいスポーツカーを作ることが目指されていた。そして、実際のカタチとなって仕上がっている。
GR86のステアリングのクイックさは、フォーカス STトラックパックに近い。だが、そこまで積極的ではない。重心位置が低く、操舵感が軽いため、より角を丸めたレスポンスに感じられる。
コーナーの入口では、ブレーキを引きずった状態でフロントノーズを落ち着かせ、リアの安定性を弱められる。ドライバーを惹き込むように、意欲的に回頭していく。
BMW Mモデルのように、派手なパワースライドを誘う余力はない。しかし、そんな必要はない。適正な回転数でパワーを保てば、コーナリングラインを調整し、バランスされたニュートラルなスタンスも、テールスライドを許すスタンスも選べる。