フェラーリのマニュアル車、なぜ価格が爆上がり? 高騰するモデルに共通点も

公開 : 2023.05.13 08:05  更新 : 2023.05.13 08:07

MT仕様が終焉を迎えたワケ

こうしてフェラーリのロードカーは、ほとんどがF1マティックとなる。F355の次世代となる360モデナの生産実績を見ると、F1マティックが全体の約4分の3以上を占めていた。

しかし2008年にカリフォルニアの登場により状況が一変する。デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)が採用され、以後登場するモデルはすべてDCTとされたのである。

MTをベースにするF1マティックは、MT仕様を容易に作ることができたが、AT専用で開発されたDCTでは、その構造からMT仕様にすることができないのである。

こうしてF1マティックを採用する最後のモデルとなったF430、599、612スカリエッティが、フェラーリで最後となるMT仕様が設定されたモデルになったのである。

F430、599、612スカリエッティの時代はF1マティックが標準であり、生産台数のほとんどを占めていた。MT仕様は、特注扱いでごく少数が作られるだけに留まる。

さり気ないMT仕様

このように最終世代のMT仕様はごく少数だけが作られるにとどまる。筆者の調査によればF430が最も多く約1500台、599が30台、612スカリエッティが199台となる。

この3モデルのMT仕様は、外から見る限りF1マティック仕様との差異はなく、車内を見てシフトレバーの存在を確認して、ようやくわかる奥ゆかしさが熱狂的なクルマ好きを魅了する。

F430/599/612スカリエッティ、3モデルのMT仕様は、外から見る限りF1マティック仕様との差異はなく、車内を見てシフトレバーの存在を確認して、ようやくわかる奥ゆかしさが熱狂的なクルマ好きを魅了する。
F430/599/612スカリエッティ、3モデルのMT仕様は、外から見る限りF1マティック仕様との差異はなく、車内を見てシフトレバーの存在を確認して、ようやくわかる奥ゆかしさが熱狂的なクルマ好きを魅了する。    RM Auctions

センター・コンソールにはフェラーリ伝統のシフトゲートが備わり、そこから延びるシフトレバーがオーナーを出迎える。足元にはもちろんクラッチペダルが存在する。

このように伝統の味わいを残す最後のモデルだけに、新車でオーダーしたのは真の愛好家だった。そのため良好な環境で維持されていたことから、現在も荒れた個体は少ない。

ここ2年間のメジャー・オークションで3モデルのMT仕様の落札額を見ると、それぞれのモデルの希少度と人気具合が見えてくるのが興味深い。

値上がり傾向にあるF430のMT仕様

F430のMT仕様は比較的タマ数が多いため、2020年以前は邦貨でF1マティックの1.5倍となる1500〜2000万円程度で落札されていた。

これは360モデナのMT仕様と同じ傾向といえる。

フェラーリF430
フェラーリF430    RM Auctions

2021年ごろからフェラーリの人気モデルが急激に値を上げ始め、その流れに連動して最近ではF430のMT仕様は邦貨換算で3000万円オーバーが当たり前になってきた。

ボディカラー(黒が人気)やローマイレージで新車同様のコンディションなどの好条件が揃うと、これまでの最高落札額は5645万を記録している。

ベルリネッタとスパイダーとの差はあまり見られない。太朗君が見つけたF430スパイダーは、人気の黒だったが走行が3.2万kmと伸び、右ハンドルのため3290万円にとどまったようだ。

日本の中古車情報サイトを見ると、F430のMT仕様はベルリネッタとスパイダーが1台ずつ確認できた。過去に日本で何台かを確認しているので、数十台は存在していると思われる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。

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