還暦のパゴダルーフ メルセデス・ベンツSL(W113型) 時代を超越する優雅 前編

公開 : 2023.06.03 07:05

ルーフ中央部分が僅かに凹んだハードトップ

実際、メルセデス・ベンツで才能を発揮したチーフエンジニアのルドルフ・ウーレンハウト氏は、230 SLの発表会でサーキットを周回。レーシングドライバーのマイク・パークス氏がフェラーリ250GT SWBで残したタイムから、0.2秒遅れで周回してみせた。

ベルギーで開催された1963年のスパ・ソフィア・リエージュ・ラリーでは、オイゲン・ベーリンガー氏が駆る230 SLが優勝。スポーツカーとしての実力を、世界中に知らしめることとなった。

メルセデス・ベンツ250 SL(W113型/1967〜1968年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ250 SL(W113型/1967〜1968年/英国仕様)

AUTOCARの読者ならご存知の方も多いと思うが、W113型のSLは「パゴダ」と呼ばれることが多い。それは、ルーフの中央部分が僅かに凹んだ、ハードトップの形状から来ている。クロームメッキされた4か所のバックルで、ボディへ固定することができた。

オープントップのカブリオレでありながら、ハードトップの特徴が愛称になったという事実が興味深い。美しいデザインだっただけでなく、僅かに凹ませることで強度を高め、大きなグラスエリアを得ていた。

初代の190 SLと比較すると、38%もガラスの面積が増やされている。その結果、開口部も大きく取れ乗り降りしやすい。ハードトップは驚くほど重く、取り外しは容易ではないけれど。

スポーティで運転しやすい2シーター

技術者が目指した2代目SLは、サーキットへ主眼が置かれた300 SLよりドライバーへの負担が少なく、190 SLより活発な、スポーティで運転しやすい2シーター。しなやかなサスペンションと心地良いシート、引き締まったスタイリングが、それらを叶えた。

オプションとして、230 SLではパワーステアリングと4速ATを設定。2代目の強みを高める内容といえた。晩年の280 SLでもオプションのままだったが、多くのユーザーは追加料金を支払って装備させている。

メルセデス・ベンツ230 SL(W113型/1963〜1967年/北米仕様)
メルセデス・ベンツ230 SL(W113型/1963〜1967年/北米仕様)

人間工学や車内の送風機能にも抜かりはなく、少々ダッシュボードの見た目が派手とはいえ、快適な運転を支えた。ウインカーとパッシング、ワイパーのスイッチが集約された、ステアリングコラムから伸びるレバーは、量産車として先進的なアイテムだった。

1963年の230 SLのベースとなったのは、控えめなテールフィンが付いたサルーン、220 SE。プロトタイプでは220 SLのバッジが与えられた例も存在したようだが、最終的には2306ccへ拡大されたM127型の直列6気筒エンジンが載っている。

ボッシュ社製の燃料ポンプを採用し、僅かにリフト量の多いカムシャフトが組まれ、最高出力は152ps。最高速度は約190km/hに届き、160km/hでの巡航走行を許容した。

エンジンの製造に用いられた素材は最高品質で、堅牢性は非常に高かった。バルブが大型化され圧縮比は高く、排気系統も専用設計され、同時期のメルセデス・ベンツとしては最もスポーティに仕上がってもいた。

この続きは中編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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