還暦のパゴダルーフ メルセデス・ベンツSL(W113型) 時代を超越する優雅 中編

公開 : 2023.06.03 07:06

2023年で誕生から60年を向えるW113型の2代目SL。唯一といえる特有の魅力を、英国編集部が振り返ります。

当時の基準としては軽くない1211kg

2代目メルセデス・ベンツ230 SLに積まれたM127型の直列6気筒エンジンは、もとは1950年代初頭の設計。ショートストロークの高回転型ユニットで、振動を軽減するクランクシャフトが組まれ、アウトバーンでの高速走行を長く支えたユニットだ。

230 SLのシャシーも1959年のサルーン、220 SE譲りだが、ホイールベースは約350mm短い2400mm。ドアとボンネット、トランクリッドはアルミニウム製で、可能な限り軽く仕上げられていた。

メルセデス・ベンツ230 SL(W113型/1963〜1967年/北米仕様)
メルセデス・ベンツ230 SL(W113型/1963〜1967年/北米仕様)

それでも、スーパーライトの頭文字が与えられた2代目SLの車重は1211kgあり、当時の基準としては軽くない。進化版の280 SLでは1420kgに達していた。大きなエンジンが生むトルクで、動力性能は担保されたが。

230 SLのメカニズムで触れるべきは、ディスクブレーキを備えること。当初はフロント側のみだったが、メルセデス・ベンツの量産モデルとしては初となる。

サスペンションは、リアがロールセンターを低く抑えたスイングアクスルの独立懸架式。中央部に横向きの補助スプリングが組まれ、幅の広いトレッドでキャンバー角の変化を最小限に留めている。

フロント側は、サルーンと同様のダブルウイッシュボーン。3200km毎にグリスアップが必要とされた、キングピンを備えている。これはオーナーにとって手間だと考えたメルセデス・ベンツは、進化版の250 SLでグリスポイントを大幅に減らした。

より静かでトルクの太いエンジンの250 SL

230 SLで小さな弱点といえたのが、トランスミッション。全体のギア比を低くすることでレスポンスを高め、6500rpmまで使い切ることを許していた。一方で、ZF社製の5速MT以外では、3速とトップギアとの間のギア比が大きく離れていた。

確かに、当時の基準としてもギア比は低いといえる。110km/h前後での巡航で要求される回転数は、4000rpmに接近した。

メルセデス・ベンツ250 SL(W113型/1967〜1968年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ250 SL(W113型/1967〜1968年/英国仕様)

4速ATは、滑らかなトルクコンバーター式ではなく、自社で開発された効率で勝る流体クラッチ式。稀に、ギクシャクした変速をする場合があった。動力性能へ、大きな影響はなかったが。

1966年11月までに生産された230 SLは、約2万台。その後はW108型サルーン、250 SE譲りとなるロングストローク型の直6エンジンを獲得した、250 SLへ進化。1967年3月から提供が始まっている。

中期の250 SLでは、当時のSクラスと同様に四輪へディスクブレーキを採用。ホイールカバーとステアリングボス、テールライトなどが外観上の違いといえる。スペアタイヤは荷室へ縦に積まれるのではなく、床面に水平に搭載された点も特徴といえた。

進化の目的の1つが、より静かにエンジンを回しトルクを太くすること。前期型の230 SLの最大トルクが21.9kg-mだったのに対し、250 SLは24.7kg-mへ改善されている。

直6エンジンはストローク増大に合わせて、メインベアリングを4枚から7枚へ変更。バルブは大径化され、オイルポンプは容量が増やされ、スロットルリンケージも改良を受けていた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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