世界最大の自動車メーカーを背負う仕事 トヨタ新社長「チャレンジは楽しい」 会長との関係は
公開 : 2023.05.18 06:05
親しみやすく頼れるリーダー
インタビューを始めたのは、スパ・フランコルシャンのパドックにある淡白なボックスルームで、トヨタチームが6時間の世界耐久選手権レースでワンツーフィニッシュを達成した数時間後のこと。
当初、佐藤氏はずっとパドックにいる予定であったが、「トラブルシューティング」を行う必要があり急遽離れることになった。後に、これはダイハツの衝突試験の不正に関するものだったことがわかる。
そのため、佐藤氏はレース終了の数分前にパドックに到着したが、レース自体は最高の結果とともに幕を閉じた。この後、彼はモーターホームでチームに挨拶する際、「From what I saw, it was easy, right?(僕が見た感じでは、簡単そうでしたね)」と、柔らかい物腰で流暢に英語を話していた。豊田氏と同じように機転が利き、親しみやすい人柄でありながら、その裏側には毅然とした姿勢と筋がある。リーダーとして、佐藤氏は期待に応えてくれると、彼に近い人々は言う。
その確かな信頼の一部は、「人」ではなく「仕事」によってもたらされたものである。佐藤氏が初めて姿を現したとき、その場にいた上級幹部からは尊敬の念がにじみ出ていた。彼に道をあけるように人垣が分かれ、その背後には屈強なボディガードが控えている。一瞬、場の空気が凍りついた。
そして、佐藤氏が一歩前に出て、その人垣に加わった。これを合図に、祝福に沸くドライバーやチームメンバーたちが舞台の中央に立ち、ヒエラルキーを越えていく。アドレナリンが出ているのだろう。
佐藤氏はオーバーオールを着たままジュピラービール(度数5.2%)を飲み、この幸福感に包まれた中で笑顔を見せている。軽く冗談を飛ばしながら、待ちわびた人々に声をかけていく。
祝賀会が盛り上がったところで、そろそろ外に出て話をしようということになった。彼は就任後初めて欧州でインタビューに応じることになるが、満面の笑みを浮かべながらも、前途多難な様子がうかがえる。
課題山積み 章男会長との関係は
業界レベルの課題としては、CO2排出量削減に向けたテクノロジー・ニュートラルなアプローチ(水素なども含む)を維持しながら、電動化(トヨタは昨年2万6000台のBEVを販売、テスラは120万台)にどう取り組むか、など。
さまざまなパワートレインを幅広く展開するというアプローチは、ハイブリッド車のリーダーであるトヨタならではのものだが、BEVに注力する同業他社とは相反するものであり、遅れをとって取り返しがつかない状況に陥るリスクがある。
また、個別の課題としては、意図しない加速の疑惑、地震、財務上の損失、さらに世界的なパンデミック(コロナ禍)など……。そして彼自身の言葉を借りれば、「危機に次ぐ危機」から会社を導いてきた豊田氏の後継者という、個人的な問題もある。
この点について佐藤氏は、豊田氏が会長という役割を担っていることはプラスに働いていると明言する。
「ご存じのように、わたしはエンジニアです。長年、クルマ作りに専念してきましたし、今後も社長として専念していきます。章男さんの楽しみはクルマを走らせることで、わたしの楽しみはクルマのエンジニアリング。それは、いいパートナーシップになるはずです。わたしは料理を作るシェフで、章男さんはそれを食べるのが好きなお客さんのようなものです」
なんともチャーミングな答えだが、難しい話題に移ると、佐藤氏の言葉に熱気が帯びてくる。トヨタが歩むべき道筋を語る彼の言葉には説得力があり、同社の足跡を考えても、他の業界リーダーから聞くよりもグローバルでニュアンスに富んでいる。
ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、BEV(2026年までに10車種、2030年までに年間350万台を販売する目標)、そして水素燃料電池に水素エンジンなど、あらゆる手段でCO2を削減することが目標であると彼は言う。