「欧州最悪」の英国 高齢ドライバーの事故多発 視力検査の義務化求める声に政府は

公開 : 2023.05.19 06:05

英国では70歳以上の高齢ドライバーに対する視力検査の義務化を求める声が上がっています。関連団体は、高齢者の運転適性を確かめるメディカルチェックが不足していると指摘。英国政府の対応や法律はどうなっているのか。

高齢ドライバーの運転適性チェックを

英国の交通安全団体は、高齢ドライバーに対する視力検査の強化を求め、70歳以降は3年ごとの視力検査を義務付けるよう呼びかけている。

元交通警察官で、ハンプシャー警察交通安全チームが運営する非営利団体オールダー・ドライバーズ・フォーラム(Older Drivers Forum)の創設者であるロブ・ハード氏は、高齢ドライバーに対する現在の要件は不十分であると述べている。

英国では高齢ドライバーの評価体制が万全ではないとの指摘が上がっている。
英国では高齢ドライバーの評価体制が万全ではないとの指摘が上がっている。

「英国は欧州で最悪の国の1つ」とハード氏は言う。「ドライバーの視力が試されるのは、運転免許試験と、警察官から20m先のナンバープレートを読むように指示されたとき(後述)の2回だけです。定期的な視力検査が義務付けられている諸外国と比較すると、英国のルールは時代遅れです」

2021年9月、ウェストサセックス州の横断歩道でモビリティスクーターに乗っていた89歳の女性が、信号無視のクルマに撥ねられて死亡するという事故が起きた。クルマを運転していた男性は当時95歳であった。そして今年、この事故を担当した上級検視官が、高齢ドライバーに対する制限や評価の欠如を懸念して、運輸省長官とDVLA(運転免許庁)の代表者に書簡を出したというニュースが流れ、再び注目を集めるようになった。

上級検視官のペネロペ・スコフィールド氏はこの書簡の中で、70歳以上のドライバーは3年ごとに新しい免許を申請しなければならないが、運転に適しているかどうかを確認するメディカルチェックが義務付けられていないと指摘した。

ドライバーの健康状態は自己申告とされているのだ。スコフィールド氏は、何らかのメディカルチェックを受けなければ、「ドライバーが自分の病状に気づかず、他の道路利用者に重大な危険を及ぼす」可能性があるとした。

この書簡に対して、運輸省は次のように述べている。「すべてのドライバーは、常に運転に適しているかどうかを医学的に確認し、影響を与える可能性のある病気の発症や悪化をDVLAに通知しなければならないと法律で定められています。我々は世界で最も安全な道路を有しており、それが維持されるように免許基準を最新の状態に保っています」

なぜ事故は起こる? セーフティネットは

英国で正規の運転免許を持つ4150万人のうち、625万人(15%)は70歳以上の高齢者である。その数は毎年25万人の割合で増加している。高齢者の健康状態は人によってさまざまだが、共通しているのは視力の低下だ。

ハード氏は92歳のドライバーによる正面衝突事故を目の当たりにして、オールダー・ドライバーズ・フォーラムの設立を思い立ったという。「これは大きな問題です。高齢になると、遠方視力と周辺視野が低下します。また、光量の変化に素早く反応する目の能力も低下します」

視力や反応速度の低下が事故のリスクにつながる。
視力や反応速度の低下が事故のリスクにつながる。

「例えば、対向車の明るいヘッドライトに慣れるのに、15歳の目は約2秒かかりますが、65歳の場合は約9秒かかります」

平均的な70歳のドライバーは、若いドライバーに比べて事故を起こす確率は高くないが、85歳以上になると、被害者側にまわるよりも事故の原因になる確率が4倍になるという。70歳から80歳のドライバーは、統計的には安全とされるが、自動車保険における保険請求額は高くなる。

そのため、70歳を過ぎると保険料が急上昇するのだ。例えば、サリー州に住む62歳のドライバーは、フォルクスワーゲン・ゴルフの保険料が約300ポンド(約5万円)であるのに対し、70歳のドライバーの保険料は約550ポンド(約9万4000円)である。

高齢ドライバーの事故の大半は、優先通行違反によるものだ。特に危険なのは、速度域の高い道路を横切るときで、高齢ドライバーは反応速度、首の動き、周辺視野が低下しているため、不利な状況に置かれている。

英国では、自分の運転に不安を感じている高齢ドライバーのために、20以上のドライビング・モビリティ・センターがアドバイスと運転評価サービスを提供している。DVLAから紹介を受けることも可能だ。

昨年、ドライビング・モビリティ・センターはあらゆる年齢のドライバー2万人を査定したが、その約3分の1が70歳以上の高齢者だった。認知症を患うドライバーの数は、2018年から2020年の間に3分の1増加し、2700人から3600人になった。2020年には、センターが評価した全ドライバーのうち27%が運転に危険と判断され、免許が取り消された。

こうした数字を受け止めながらも、ハード氏は高齢ドライバーのリスクは画一的なものではなく、「歳の取り方は人それぞれ違います」と語っている。「90代でも十分に運転できるドライバーはいます。一番やってはいけないことは、自分の状態に満足することです。ドライバーは、運転を引退するタイミング、あるいは運転を続けるための支援を求めるタイミングを知る必要があります」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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