4949ccか5752ccか フォード・マスタング ボス302とマッハ1 規制前夜のポニーカー 後編

公開 : 2023.06.04 07:06

正確性の高いステアリング 悪くない姿勢制御

V8エンジンを目覚めさせると、マッシブなひと吠えを響かせるが、アイドリングは静か。エグゾースト系はオリジナルのままだが、デトロイトのV8エンジンらしい、独特のビートが伴う。

滑らかに変速する3速ATと相まって、リラックスした走りが心地良い。アグレッシブな見た目とは、少々対照的でもある。当時は、あからさまに唸りを上げる、社外マフラーへ交換するオーナーも多かったはず。

フォード・マスタング・マッハ1(T5/1969〜1970年/北米仕様)
フォードマスタング・マッハ1(T5/1969〜1970年/北米仕様)

ホワイトレターのBFグッドリッチ・タイヤは、15インチで扁平率が65。カーブでは、高くない速度でもスキール音を聞かせるが、優しい乗り心地を叶えている。

ステアリングは予想通り。非常に軽く、切り始めにデッドゾーンがある。とはいえ、ドラッグレースを得意とするモデルとしては正確。1970年代初頭のアメリカ車の割に、姿勢制御も悪くない。

コーナリング時に厄介なのが、ステアリングホイールのリムの内側に巡らされた、クラクション・リング。通称リムブローと呼ばれるが、うっかり握ると鳴らしてしまう。

対してオレンジ色のボス302は、1974年からグレートブリテン島で過ごしてきた。マッハ1とは対象的に、スポーティなスタイリングへ走りが合致する。

運転席へ座ると、ステアリングホイールは平凡な2スポーク。リムブロー機能はない。ダッシュボードのデザインはマッハ1と基本的に同じだが、運転席側にはタコメーターが備わる。

トランスミッションは、クロスレシオの4速マニュアル。ハースト社のシフターがやる気をそそる。

4000rpmから5000rpmで最高の豊かさ

エンジンを始動させると、ライブ感たっぷりなV8エンジンのノイズが車内を満たす。賑やかさでいえば、マッハ1の比ではない。発進に必要な回転数まで吹かすと、レーシングカーのホモロゲーション・マシンらしく、一層うるさい。

シフトレバーを倒し1速を選ぶだけでも、それなりの力がいる。ストロークの長いクラッチペダルは重い。全身を使って運転するタイプだとわかる。

フォード・マスタング・ボス302(T5/1969〜1970年/北米仕様)
フォード・マスタング・ボス302(T5/1969〜1970年/北米仕様)

2000rpm以下では目立ってパワフルな印象はない。それを超えるとハードコアなサウンドが野獣の雄叫びような響きへ転じ、4000rpmから5000rpmの範囲で最高の豊かさを楽しめる。マッハ1より乗り心地は硬く、路面をしっかり捉える。

ところが、ステアリングの反応は驚くほど一貫性が乏しい。切り始めで特にフィードバックが希薄で、きついカーブを攻め込むには、感覚から反応を予想する必要がある。グリップ力は高く、実はもっとペースを速められることを知る。

クーパー・コブラ・タイヤが路面を安定して蹴り、旋回性は悪くない。タイヤはスキール音を発しにくく、車重が1539kgあるマッスルカーとしては、コーナリングでの充足感がある。

ボス302で悩ましい部分が、動きの渋いシフトレバー。常に相応の力が求められるが、3速から2速へのシフトダウン時は感触が曖昧で、気配りも必要になる。パワートレインの熱が上昇すると、一層の筋力も必要になるようだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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