スラントノーズの優勝マシン ポルシェ935 K3を再現 中身は911 カレラ2.7 MFI 前編
公開 : 2023.06.10 07:05
ベースはGシリーズの911 カレラ2.7 MFI
ワイドなカレラ2.7 MFIをモストは気に入り、ロンドンの市街地を走る姿がしばしば目撃された。だが、ル・マンで優勝した935 K3の魅力からは抜けきれなかったようだ。
クレマー・レーシングを訪れた彼は、新しい911ターボ 3.3や911 SC 3.0をベースに、公道走行できるクルマを仕上げては、と提案を受けたらしい。しかし、ポルシェのコレクターとして、所有する1台をベースにしたいという考えを持っていた。
そもそもレーシングチームのクレマーが、顧客の要望へ応じて特注の1台を製作することは一般的ではなかった。それでもモストは諦めきれず、1983年に説得へ成功。既に9年落ちになっていた911 カレラ2.7 MFIをベースに、今回の1台が生み出された。
現在のオーナーは、アラステア・アイルズ氏。カギをお借りし、ステアリングホイールを握らせてもらう。発進して最初に気が付くことは、ステアリングレシオがクイックなこと。
基本的にはカレラ2.7 MFIと同じもので、パワーアシストは備わらない。低速域でステアリングが重いものの、スラントノーズの向きを左右へ変えるには、最小限の入力で済む。
クレマーの技術者によって、前後のサスペンションには太いアンチロールバーが組まれている。カーブでは驚くほどフラットに旋回し、ステアリングのレスポンスをさらに強調している。
パワーオン時のトラクションは明らかに高い
地面に付きそうなほど低い、フロントスプリッターもクレマー独自のアイテム。クラシックな911の弱点といえる、高速走行時にフロントノーズが軽くなり、ステアリングホイールへ伝わる感触が薄れるという特性を改善している。
全体的な印象はこの年代の911と変わりないが、パワーオン時のトラクションは明らかに高い。僅かにリアを沈ませつつ、移動した荷重で285幅のリアタイヤが路面へ押し付けられる。今日の試乗コースには砂が浮いていて、気を抜けないが。
935 K3と同じフロントノーズやフェンダーラインを得たことで、15インチのホイールもワイド。フロントには2J増しの8J、リアには4J増しの11Jというサイズが組まれている。リアウイングも巨大だ。
機敏なステアリングと相まって、思い切り振り回しやすい。アクセルペダルを急に緩めても、リアがボディを押し出すような挙動は抑えられている。路面の凹凸を越えると、太いタイヤを通じて手のひらへ明確なキックバックが伝わる。
フロントにオイルクーラーが追加されているものの、パワートレインはカレラ2.7 MFIのまま。レーシングカー然とした見た目とは裏腹に、強烈に速いわけではない。
最終的にクレマー・レーシングがモストへ請求したカスタム費用は、9700ポンド。当時は、新車の911 SCの7割近い金額に達した。
この続きは後編にて。
画像 スラントノーズの優勝マシン 935 K3レプリカ 3.0 RSRとRS 3.8 917K 最新911も 全142枚