北アフリカの新興企業、EVで世界を目指す 3年以内に高級SUV発売へ 欧州市場参入も

公開 : 2023.05.26 06:05

モロッコの新興EVメーカー、アトラス社は2026年までに高級電動SUVを開発・発売すると発表しました。既存メーカーの部品を活用し、人件費の安いモロッコ国内で生産することでコストを抑える方針です。

シンプルかつ機能的なEV アフリカの誇りに

北アフリカに位置するモロッコの新興企業アトラスEモビリティ・グループは、2026年までに高級電動SUVを開発・発売する計画を発表した。

同社の共同設立者兼CEOであるモハメド・イエヒア・エル・バッカリ氏はAUTOCARに対し、「モロッコのデザインとアイデンティティ」にインスパイアされた「シンプルかつ機能的」なEVになると語っている。

同社初の市販車は、コンパクト~ミドルサイズのSUVになるようだ。
同社初の市販車は、コンパクト~ミドルサイズのSUVになるようだ。    アトラスEモビリティ・グループ

また、「実際に消費者が必要とし、求めている技術のみを使用する」とし、「不要なものはすべて切り捨てる」とも語っている。

アトラス社は、まず欧州、アフリカ、中東の市場に参入し、ミドルクラスの顧客獲得を目指す。そのため、同社初の市販車となる電動SUVは、BMW iX1、メルセデス・ベンツEQAテスラモデルYなどと競合し、価格は4万ポンド(約690万円)から5万ポンド(約860万円)程度になると予想されている。

同社はまた、テスラのように独自のEV充電インフラを立ち上げる予定であり、「実際の製品を市場に出す前に、まずインフラを導入する」としている。

車両にはOEMの既製部品を使用し、モロッコで生産することでコスト削減を図るという。

エル・バッカリ氏は次のように説明する。

「まず第一に、技術開発、つまり研究開発費です。当社の場合、研究開発費は投資総額の5%程度に過ぎません。すべてを自社開発するのではなく、OEMや他社がすでに開発した専門知識とノウハウ、技術を活用しているのです」

「当社は、すでにあるものを最初の段階で組み立てていき、最もコスト効率の良いアプローチを取ります」

「EV生産に関わる第二のコストは電気代です。また、特定の市場では電気代が非常に高くなる傾向がありますが、モロッコでは電力の約50%が再生可能エネルギーでまかなわれています。そのため、モロッコはすでに再生可能エネルギーに長けていて、工場を稼働させるための電気代などが安くなるのです」

「もう1つの利点は、非常にコスト効率の良い方法で原材料にアクセスできることです。当社はそれを強みにしたいと考えています」

「人件費も安い。モロッコの人件費は欧州の20%です。最低賃金は月300ドル程度で、欧州では1000ドル以上です」

モロッコにはすでに自動車のサプライチェーンが存在し、ルノー・グループなどの大手企業が北アフリカの国に工場を構えている。ルノーは、ジブラルタル海峡に面した港町タンジェで欧州向けのダチア・サンデロを生産しており、ミニバンのダチア・ジョガーの生産も2024年半ば頃に同工場に移される予定だ。

エル・バッカリ氏によると、アトラス社は複数のメーカーとプラットフォーム共有の可能性について協議しているが、特定の企業名を挙げるのは時期尚早だという。

同様に、さらなる投資に関する話も進んでいるが、まだ高度な段階には至っていないようだ。

アトラス社が、なぜ難易度の高い自動車業界に参入することになったのか。学生時代から自動車業界に関わり、コンサルタントなどを経験してきたというエル・バッカリ氏は次のように語っている。

「クルマは感情を表すものであり、それも非常に情熱的なものです」

「アフリカの人々が誇りに思うようなものをつくりたい。今までこのようなことを行った人はあまりいないでしょう。アフリカでEVを開発・設計したのは、当社が初めてになります。それは、人々に多くの誇りと充実感をもたらすはずです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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