物理の力で充電する「フライホイール」技術 EV急速充電器の普及促進へ 英国
公開 : 2023.05.30 06:25 更新 : 2023.05.31 15:17
電力などのエネルギーを運動エネルギーとして蓄える「フライホイール」が、EV急速充電器の普及を助ける技術としてにわかに注目を集めています。電動化を促進する英国で、充電技術の開発が進んでいます。
EV充電技術に新たなアイデア 運動エネルギーで充電?
エネルギー貯蔵の一形態として「フライホイール」が復活しつつある。フライホイールとは、電力などのエネルギーを運動エネルギーとして蓄えるものだが、クルマの電動化が進む中で、EV急速充電器の長蛇の列からわたし達を救ってくれるかもしれない。
フライホイールの歴史は古く、最も一般的な用途は、レシプロエンジンの動力を平滑にすることである。運動エネルギーを蓄えることで、エンジンが回転するまでの数ミリ秒の間に、スムーズなトルクを発生させることができるのだ。また、大型のものは鉄道機関車や路面電車など、さまざまな交通機関や定置用機器に使用されている。
F1のKERS時代にはウィリアムズが採用しようとしていたが、代わりに商業化を目指してウィリアムズ・ハイブリッド・パワー社が設立された。他にも英国のフライブリッド・システムズ社やボルボなどが小型で超高速のフライホイールを開発し、プロトタイプによるテストを行ってきた。
今、フライホイールは、EV用の急速充電器と組み合わせる「機械式バッテリー」というエネルギー貯蔵システムとして、再び日の目を見ようとしている。
英国のEVドライバーにとって、公共充電ネットワークの信頼性や設置数の欠如が大きな懸念材料となっている。英国ではEVの販売台数が伸びているが、いざ充電しようと思っても、充電器が混雑していたり、ブロックされていたり、サービスが停止していたりという残念な報告が多い。そのため、EVの航続距離への不安は、充電への不安に変わってきているのだ。
英国の送電網全体では、EVの普及に対応できるだけの電力が確保されており、供給業者ナショナル・グリッドはその確保に向けた計画(Future Energy Scenarios)を発表している。
しかし、地域ごとで必要とされる電力需要の増加に対応することは、依然として課題となっている。急速充電器や超急速充電器は、接続されている地域の変電所の能力が十分に高くなければ本来の性能を発揮できないが、変電所のアップグレードにはコストと時間がかかる。
フライホイールシステムは、既存の送電網の電力を利用して比較的ゆっくりとエネルギーを蓄積し、一度「充電」されると、より高いレベルのエネルギーを放出できるという利点がある。つまり、350kWの超急速充電器をフライホイール蓄電システムとともに設置すれば、地域の電力網に混乱を招くことなく、そして高価な改修費も必要なく、ゆっくりと電力を蓄えることができるのだ。
このアイデアはすでに形になっている。イスラエルを本拠地とするZOOZ社のシステム「Zoozter Kinetic Power Booster」に使用されるフライホイールは、熱間圧延ラミネート鋼で作られており、他のすべての材料とともに100%リサイクル可能であると言われている。
ZOOZ社によると、一般的な急速充電器は1日に20台のEVを充電すると想定されており、合計すると1年間で約7000回の充電を行うことになる。従来の据え置き型のケミカルバッテリーは急速に劣化してしまうが、最新のフライホイールシステムである「Zoozter-100」は20万回以上の充放電サイクルに耐え、15年間は交換が必要ないという。
この技術を開発し、ZOOZ社に供給している英国のレビスター社は先月、その取り組みが評価され、権威ある国際賞スウェーデン・スティール・プライズの最終候補となった。