ジャガーF-タイプ Rクーペ
公開 : 2014.07.26 15:56 更新 : 2017.05.29 18:38
そして、過剰な馬力に対する備えとして、リヤは基本的に安定の枠を離れないようになっている。旋回初期に後輪は嫌味に粘ることはなく、自転の起動は爽やかで、自転軸はドライバーの腰のすぐ後ろあたりまで素早く前進していく。けれど自転はそこで踏み止まる。さらには、パワー印加で沈むと後輪はジオメトリー変化を利してどっしりと腰を据え、姿勢安定デバイスをスポーツモードに切り替えても後輪スリップアングルは舵を少し戻す程度にしか増えないように電制が抑止を効かす。V8の電制LSD(基準車はオープンデフでV6のSは機械式)も、基本的には左右拘束でリヤを粘らせる方向に仕事をするように設定されている。550psV8搭載のFタイプRは豪快に速く、しかし美しく身を運ぶのである。
だが、それがFタイプRクーペの全てではない。運転モードをトラックに入れて余計な制御を排除すると、化粧の下の素顔が表れる。それでも丁寧に後ろに荷重を乗せておけばリヤは落ち着きを簡単には失わないのだが、前に荷重を乗せておいて呼吸を量ってアクセルペダルを蹴ると、今度はリヤはPゼロの悲鳴とともに颯爽と横滑りを始める。そのとき接地感は充分に保たれたままで、ステアリング反力も騒がしくなく、滑らせる量の加減も容易だ。また、スライドを止めて後輪が地面を喰いなおしたときのリヤの揺れ返しも少ない。実に美しいパワーオーバーステア。ドリフトの腕が立つ者であれば笑いが止まらないほど面白いだろう。
Fタイプのクーペはジャガー一流の所作の美しさだけで愛でるGTカーではない。その背後に機動の豪快を隠した、“次の間”付きの奥妙な高性能車である。恐れ入りました。
(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)
ジャガー・Fタイプ・Rクーペ
価格 | 1286.0万円 |
0-100km/h | 4.2秒 |
最高速度 | 300km/h(リミッター) |
燃費 | 9.0km/ℓ |
CO₂排出量 | 259g/km |
車両重量 | 1810kg |
エンジン形式 | V8DOHC機械過給, 4999cc |
エンジン配置 | フロント縦置き |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 550ps/6500rpm |
最大最大トルク | 69.3kg-m/2500-5500rpm |
馬力荷重比 | 304ps/t |
比出力 | 110ps/ℓ |
圧縮比 | 9.5:1 |
変速機 | 8段A/T |
全長 | 4470mm |
全幅 | 1925mm |
全高 | 1319mm |
ホイールベース | 2620mm |
燃料タンク容量 | 70ℓ |
荷室容量 | 407ℓ |
サスペンション | (前)ダブルウィッシュボーン |
(後)ダブルウィッシュボーン | |
ブレーキ | (前)φ380mmVディスク |
(後)φ380mmVディスク | |
タイヤ | (前)255/35R20 |
(後)295/30R20 |