英国初 160km/h超の量産車 ヴォグゾール30-98 OEタイプ 誕生100年を5台で記念 後編

公開 : 2023.06.24 07:06

HJマリナー社が手掛けたボートテール・ボディ

そこで彼はシャシーをオリジナルへ復元し、レプリカのボディを架装させた。クルマが仕上がって以降は、サーキットやヒルクライム・イベントへの参加だけでなく、フランスへの長距離旅行などにも活躍しているという。

ドアがなく、キャビンはスポーツカーというより、ヴィンテージの工芸品のように美しい。後期型で油圧ブレーキが備わり、右足のブレーキペダルで減速できるのも美点だ。

ヴォグゾール30-98 OEタイプ・マリナー・ボートテール(1923年式/英国仕様)
ヴォグゾール30-98 OEタイプ・マリナー・ボートテール(1923年式/英国仕様)

丘に伸びる坂道を飛ばすと、主要な操縦系もシャシー特性も洗練されているのがわかる。欧州大陸まで遠征したくなるのも理解できる。

そんな印象は、チャーリー・プリンス氏がオーナーの1923年式マリナー・ボートテールにも通じる。オリジナルではヴォグゾールのヴェロックス・ボディが架装され、初代オーナーが1930年までイランで乗っていたようだ。

その後、息子がマンチェスターまで自走で運び、別のオーナーが購入。1933年にコーチビルダーのHJマリナー社へ、ボートテール・ボディの製造が依頼された。その人は1966年まで所有していたという。

フロントアクスルに改良が加えられ、ブレーキの能力が大幅に高められている。キャビンは広々とした2シーターで、滑らかにカーブを描くテール部分は、大きな荷室に充てがわれている。ウェンサム社の無駄を排除したデザインとは、対極的といえる。

ヴィンテージカーの運転に慣れていない人でも、このOEタイプなら馴染めるはず。それでいて、30-98の特徴をしっかり宿している。

当時のオーナーを表彰台に立たせたOEタイプ

だが、AUTOCARとして注目したいのはオリジナルに近い1台。AOA 2のナンバーで登録されたOEタイプは、これまで数多くのイベントに参加してきた。現在は造詣が深いグレゴール・フィスケン氏が面倒を見ている。

1924年式で、シャシー番号はOE152。オーナーだったロナルド・ヒューズ氏が1933年にレース・レギュレーションへ合わせて改造し、1934年に開かれたブルックランズ・サーキットのイベントに参加。以来、多くの結果を残している。

ヴォグゾール30-98 OEタイプ(1924年式/英国仕様)
ヴォグゾール30-98 OEタイプ(1924年式/英国仕様)

グレートブリテン島の中西部、シェルズリー・ウォルシュのヒルクライムでは当時の最速タイムを残し、サーキット・イベントでもドライバーを表彰台に立たせてきた。1943年に売却されるが、以降の各オーナーもOEタイプの能力を引き出していたようだ。

筆者も、テストコースで本域に迫った。ダンロップのレーシングタイヤを履き、サイクルフェンダーをまとい、ボンネットから伸びる4本出しのエグゾーストが勇ましい。

1速を選び、右側に配されたアクセルペダルを踏み込むと、激しい唸りとともにパワーが放たれる。爽快な勢いを、しっかり路面を掴むシャシーが支える。

30-98を設計した技術者のローレンス・ポメロイ氏は、100年後も愛されていることを知ったら、きっと誇りに思うだろう。1907年以来、ヴォグゾールの本社だったルートンのオフィスが売却された事実は、知らせない方が良いかもしれない。

協力:デビッド・カーク氏、アンドリュー・デュアーデン氏、ルートン・ホー・ホテル、ニック・ポートウェイ氏、チャールズ・プリンス・クラシックカーズ

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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