BMW435iカブリオレMスポーツ
公開 : 2014.06.26 15:17 更新 : 2017.05.29 17:59
困った。雨だった。生憎という表現では済まないくらい困るのである。なにせカブリオレなのだから。
自動車のボディ剛性というのは、とても微妙なものである。計測器で量った端的なねじり剛性や曲げ剛性の値とは別に、そこで数値化されない僅かな変形が乗り心地や走り味に大いに関わってくる。例えばドアを閉めたときにアンカーが開口部に突っ張るように仕立てると、それだけで剛性感が変る。オープンカーも屋根の上げ下ろしで変わる。あの細い幌骨の有無で明らかにボディの感じが変ってくるのだ。
幌骨でそれだけ変わるのだから、このF33系435iカブリオレの場合は余計に厄介だ。なにしろ、このクルマの屋根は3分割になった金属パネルから構成されている。屋根を上げた際の突っ張りかたは幌骨の比ではない。その落差をよく弁えていたからこそ、BMW実験開発セクションは先代E90系3シリーズのカブリオレを可動メタルトップ化することに最後まで抵抗した。しかし結局は、今やこれでないと競合車に太刀打ちできぬという販売からの強い要請に負けて、そして現行F33系もメタルトップと相成った。
困っていても仕方ないので雨中の試乗を始める。直進が出しづらいことだ。微舵があやふやなことが、まずその原因。435iは例の可変ギヤ比の電制操舵系を装備するが、そのせいではなさそうだ。前サスのロワアームのブッシュ弾性が過大――停まるときに明確に分る――なので、路面からの入力によってタイヤが勝手に首を僅かに振ってしまう。水溜りにアシを突っ込んだときなどステアリングを握る手にもそれが返ってくるほど前輪が振れる。ユルいブッシュのせいで常に前がチョロチョロと微妙に動いているのだ。
加えてアシも動く。F30系3シリーズは、大負荷時のストロークを強烈な漸増特性をもつバンプストッパの加勢で規制しつつ、そのストッパを初期ストローク時には全く効かせないことで平常時の乗り心地を確保する。金属ばねやダンパーが、その初期ストローク時に強く効いてしまっては目的が果たせないから、これを柔弱に設定する。先代E90系から始まった、この安易な手口はF30系にも引き継がれていて、初期ストロークで前アシがクタクタと常に動き続ける。そのせいでフロントが腰を据える感じがとても薄いのだ。