BMW435iカブリオレMスポーツ

公開 : 2014.06.26 15:17  更新 : 2017.05.29 17:59

試乗車に電制ダンパーが備わっていることを想い出して、それをハード側に切り替えてみる。すると乗り心地にゴツゴツ感と突き上げが加わる代わりに、初期ストロークに抑えが効くことで落ち着きが出るようになった。おまけもあった。BMWのステアリングはリムを10時10分に握って、旋回アウト側の手を押し上げるように操舵――彼らのドライバートレーニングで教わる方法だ――すると全てが上手く行くように調律されている。しかし、コンフォート側に入っていると上記のようにアシが動いて上屋が揺れ、その上下加振で腕が動いてしまう。このときコンフォート側だと操舵アシストも強くなっているので、舵に僅かながら影響が出てしまう。F30系3シリーズに対し直進安定性の不足を指摘するプロは森慶太氏を始めとして少なくないが、実はその主因はこれである。ところが、ハード側だとアシストも減って重くなるので、それが出にくくなるのである。

ユルいといえばパワートレインマウントも緩い。普段はZF製8段A/Tのきわめて洗練された変速動作によってそれが塗り隠されているのだが、アクセルの開閉と前後Gが折悪しく重なった際に分かってしまう。低い速度で流れているときに、この8ATは燃費を優先して無闇に高いギヤに上げようとするが、それを厭って手動で減段すると、このマウントの柔弱が顔を出してシャックリが起きることがある。

306psと40.8kgmを誇るN55B30A型3.0ℓ直6ターボ――それでも低出力仕様なのだ――の実力は、高速の追い越し加速時に味わえるけれど、あらゆる状況で存分にアクセルを踏める信頼感はない。

さて、どうしたものかと思案投げ首のまま、だらだらと試乗を続けていたら幸運が訪れた。雨が止んだのだ。iPhoneで都の降雨観測サイトを見てみると、しばらくの間は雨雲が切れる。

今だとばかりに屋根を開けた。開閉は20秒。信号待ちの間に完了。そして走り出して全てが一変した。

クルマの動きから棘や凸凹が消えた。アシ運びが柔らかくなった。それが前アシの弾性過大を飲み込んでくれている。柔らかさの中に微舵応答やアシ運びや上屋の動きが一体化して、輪郭は甘いけれど、統一感が出ている。電制ダンパーをハード側に入れても、突っ張る感じが消えて乗り心地も向上した。自動車のチューニング領域の果たす役割は恐ろしい。ここまで印象が一変するのだから。

やはりそうなのだ。この435iカブリオレも、オープンで全てが上手くいくように調律されている。可動メタルトップ式のオープンカーを、普段はクーペとして使い、とっておきのときだけオープンにするつもりで買うひとは多いだろう。だが、それだとこのクルマなりの美味は、1年に何回かしか味わえないことになるのだ。

(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)

BMW435iカブリオレMスポーツ

価格 889.0万円
0-100km/h 5.5秒
最高速度 250km/h
公称燃費(EU混合) 13.3km/ℓ
CO₂排出量 176g/km
車両重量 1840kg
エンジン型式 直6DOHCターボ, 2979cc
エンジン配置 フロント縦置き
駆動方式 後輪駆動
最高出力 306ps/5800rpm
最大最大トルク 40.8kg-m/1200-5000rpm
馬力荷重比 166ps/t
比出力 103ps/ℓ
圧縮比 10.2:1
変速機 8段A/T
全長 4640mm
全幅 1825mm
全高 1385mm
ホイールベース 2810mm
燃料タンク容量 60ℓ
荷室容量 220-370ℓ
サスペンション (前) マクファーソン・ストラット
(後)5リンク
ブレーキ (前)Vディスク
(後)Vディスク
タイヤ (前)225/40R19
(後)255/35R19

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