乗り心地を極める1台 ロールス・ロイス ベントレー レンジローバー BMW 5台直接比較 前編
公開 : 2023.06.17 09:45 更新 : 2023.06.19 08:40
多くの要素が複雑に絡む乗り心地
筆者はそれなりに経験を積んできたつもりだが、ランドルの発言は遥かに鋭い。ホイールハブの縦方向の落ち着き、ロールセンターの高さ、アクスルの振動などについて、繊細に感じ取っていく。乗り心地を分析することの難しさを実感する。
少なくとも、自分も快適かどうかは判断できる。これまで、多くのモデルへ試乗してきたように。
AUTOCARでは、クルマの乗り心地をプライマリー(1次)とセカンダリー(2次)にわけて評価することが一般的だ。1次とは、路面変化に対してボディがどれだけ動くのか、前後のピッチや左右のロール、上下のバウンスなどを判断したもの。
2次とは、タイヤやサスペンションがどのように動き、振動を伝えるのかを判断したもの。ここにはシートの座り心地や、ドライビングポジションの具合などは含まれない。だが、これらの要素も乗り心地に大きな影響を与える可能性は高い。
さらに、走行時にタイヤが発するノイズ、ボディの剛性感、ダンパーの動き、姿勢制御のまとまりなども関係してくる。すべてが複雑に絡んでいる。
単純に表現するなら、ソフトな乗り心地は快適性が高いと感じられることが多い。AUTOCARでも、そう判断されることが少なくない。
それでは、今回の5台で最もソフトに感じたクルマはどれかというと、1番古いロールス・ロイスではなかった。15インチ・ホイールに扁平率75という肉厚なタイヤを履き、穏やかで宙に浮いているような質感を期待していたのだが。
ファントムVIIIの雲のように浮遊した体験
実際は、リアにリーフスプリングとリジットアクスルが組み合わされた、半世紀以上前のリムジンだ。最新モデルと比べて身のこなしがおっとりしているぶん、乗り心地はマイルドなものの、豪華なボディやシャシーのあちこちから軋む音が絶えず聞こえる。
ふっくら膨らんだ、お尻全体を包むようなシートのおかげで、快適性は確かに高い。エンジンのハミングを僅かに聞かせながら、バンネ・ブライチェイニオッグの傷んだ路面を、滑らかで静かに進んでくれた。
しかし、それ以上に雲のように浮遊した体験を与えたのは、シルバークラウドの子孫に当たるファントムVIIIだった。ロールス・ロイスは、類まれに贅沢な体験をフラッグシップ・リムジンで味わって欲しいと考え、設計している。
ハイエンドなラグジュアリー・モデルのなかでも、サスペンションの設定は明確にソフト。ストロークも長い。ファントムVIIIが生涯の99%を過ごすであろう様々な状態の路面で、極めて自然に浮遊した乗り心地へ浸れる。
長い周期で路面がうねっていても、滑空しているかのようにボディはフラット。ある程度スピードが増せば、隆起部分の存在すら感じさせない。あらゆる路面変化がもたらす影響を、ほぼ完全に排除していた。
とはいえ、幾つかの妥協も存在している。素晴らしいと表現していいものの、完璧な乗り心地には届いていなかったことも事実だろう。
この続きは後編にて。