BMW M235i
公開 : 2014.05.26 17:33 更新 : 2017.05.29 17:59
結論から言えば、今回もファンの期待に十分に応えられそうなものにはなっていなかった。
当たり前と言えば当たり前だ。M235iはM135iと、プラットフォームから始まってホイールベースやトレッドも同じなら、エンジン駆動系やシャシー構成部品まで同じである。最高出力の数字が6ps違うくらいで、最大トルクも同一で、念の入ったことにCd値と前面投影面積まで同じである。
M135iのそれと同じにはなるが、あらためて所見を書いておこう。エンジンはターボ過給器付きとはいえ、BMWに期待される吹け上がりの爽快を見せる。2.0ℓ以下の小排気量ターボのように、途中でブースト圧を使い切ってフン詰まる感がないのも好印象だ。だが、その出力指向の代償で過給遅れが顕在化している。M135iでは未導入の6段M/T仕様に乗るとそれが明白だ。3000rpm以下ではまだエンジンは性能値から期待される活気を十分には見せてくれず、4000rpmでもアクセル印加から過給の立ち上がりまでに暫しの待ちが要る。往年のターボエンジンを髣髴とさせる振る舞いである。
アシは、電制ダンパーに過軟なばねを組み合わせることで安易に対応域を広げようとして失敗した典型だ。ノーマルモード低負荷では減衰力を弛めたダンパーが軟いばねを律することができず、アシは指半本ぶんほど空けられたバンプストッパーとのクリアランスの中で終始ヒクヒクと落ち着かない。一方、ハードモードでバンプストッパーを潰すようなロール角を入れると、アシは伸縮を頑固に拒み、路面不整に敏感に反応してタイヤが暴れ、あっさりトラコン警告灯が点滅する。M135iもこのM235iもランフラットを履いていないのに、こうなるのである。
旋回特性は、先代M135iのような典型的なリヤ優勢ではなく、回り込むのを嫌がる直線番長的な素振りは見せないが、それでも相対的に前輪に余裕がない感覚は常につきまとう。DSCを切ればパワーオーバー挙動は引き出せて、そこそこ大きめに後輪スリップアングルを取ること──所謂ゼロ舵角ドリフトくらいの状態──は可能ではある。だがその一方で、前後荷重移動を使って繊細にヨー運動を作ろうとしても拒否される。基本的な方針は、逆に、前後荷重移動に対する反応を動的アライメント変化でキャンセルして鈍穏な安定性を作っておき、可変ギヤ比を仕込んだ舵で曲がらせようとするもののようだ。
そんなわけでM135iと相似形の振る舞いを見せたM235iだが、相違点があるとすればリヤ上屋の剛性か。Cピラー基部をリヤシェルフ構造材で硬めるこちらは、ハッチバックゆえそれが不可能なあちらよりも明らかに後ろが硬質なのだ。リヤを硬めてパワーオンに対して精緻な反応を作るのがBMWであり、その精緻を磨き上げるのがM GmbHである。だがM235iは、その硬さを利として使えていない。闇雲に突っ張ってしまって後輪が暴れやすく、物理的なトラクション能力が足りない様子が表面化してしまうのだ。ならばそれを補う方策としてLSDを望むのが理路なのだが、本国にはオプションで用意されているトルセン式の差動制限装置は何故か日本では選べない。これではクーペの意味も6段M/Tの意味も薄くなってしまう。
そうなのだ。よすが程度でもかまわないとE30系M3の再来をと望むファンの慕情は、こうしてまたもBMWの商品戦略とすれ違ったのだ。
(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)
BMW M235i
車両価格 | 615.0万円 |
0-100km/h | 4.8秒 |
最高速度 | 250km/h |
燃費 | 13.2km/ℓ |
CO₂排出量 | 176g/km |
車両重量 | 1550kg |
エンジン形式 | 直6DOHCターボ, 2979cc |
エンジン配置 | フロント縦置き |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 326ps/5800rpm |
最大最大トルク | 45.9kg-m/1300-4500rpm |
馬力荷重比 | 210ps/t |
比出力 | 109ps/ℓ |
圧縮比 | 10.2:1 |
変速機 | 8段A/T |
全長 | 4470mm |
全幅 | 1775mm |
全高 | 1410mm |
ホイールベース | 2690mm |
燃料タンク容量 | 52ℓ |
荷室容量 | 390ℓ |
サスペンション | (前)マクファーソン・ストラット |
(後)5リンク | |
ブレーキ | (前)Vディスク |
(後)Vディスク | |
タイヤ | (前) 225/40R18 |
(後)245/35R18 |