1970年代の当たり前 モーリス・マリーナ ヒルマン・ハンター ヴォグゾール・キャバリエ 後編
公開 : 2023.06.25 07:06
営業マンのサルーンとして充分な可能性
1971年10月のデイリー・テレグラフ紙は、マリーナ 1.8TCのオーナーが、改良のためにディーラーへクルマを持ち込む必要があることを報じた。1971年7月までにラインオフした約1600台が、BL側の費用負担でアップデートを受けている。
多少のイメージダウンは伴ったものの、1973年までに販売は回復。その頃の英国では最も売れていたフォード・コルチナ Mk3に次ぐ勢いで、モーリス・マリーナへ支持が集まった。
一方、マスメディアの反応は良くなかった。1975年のCAR誌はマリーナを「酷いクルマ」とまで評している。BLの望ましいとはいえない労使関係と、充分とはいえない品質管理が影を落とし、会社からの貸与車両としては主力になりにくかった。
それでも、営業マンのサルーンとしては充分な可能性を秘めていた。1975年にフェイスリフトを受け、生産は1980年まで続いた。その後、イタリアのイタルデザインの力を借り、スタイリングを一新したモーリス・イタルが登場し、1984年まで存続している。
1971年の発売から半世紀以上。ENJ 91Kのナンバーで登録されたマリーナ 1.8スーパーは、ライムフラワー・グリーンと呼ばれるボディカラーが強い印象を残す。
スタイリングは、フォードから移籍したロイ・ヘインズ氏が手掛けた。開発期間が非常に短かったことを表すかのように、プロポーションは整っているが、モダンさは薄い。
長年ジョークのネタになってきた
「モーリス・マリーナは、洗練性や操縦性が優れているとはいえないでしょうね。それでも、1.8LのBシリーズ・エンジンは、トルクが太くてサウンドも良いと思います」。とオーナーのキングスフォードが冷静に話す。
「ボディは軽く、アンダーパワーに感じることはありません。カーブの連続する道を飛ばすことが前提ではないと受け入れれば、アンダーステアもそこまで問題にはならないと思いますよ」
「50年前のクルマですが、長距離ドライブは驚くほど快適です。シートは座り心地が良く、ヒーターも効きます。回頭性は悪くないと思います。ベーシックな作りで、メカニズムも頑丈に感じますね」
今回の3台で、どれが最も長距離出張に適したサルーンだと考えるかは、ブランドに対する思い入れで大きく変わるはず。特にモーリスは、起源を1897年にまで遡る古参。それぞれのオーナーは、自分のクルマが1番だと答えるだろう。
マリーナの根本的な問題といえたのは、その後のオースチン・マキシと同じく、開発を急ぎすぎたことに起因していた。ライムフラワー・グリーンの1.8スーパーは、裏生地の付いたビニール内装など、細かい部分まで当時の魅力を感じさせてくれる。
「長年、マリーナは様々な議論を呼び、ジョークのネタになってきました。ピアノで潰されるなどね。でも、そのおかげで改めて関心が高まったとも考えています」。と、キングスフォードが笑う。