現実を見る 合成燃料「eフューエル」は排出量削減に使えるの? 厳しい現実、大きな課題

公開 : 2023.06.14 06:05

エンジンにはまだ未来がある 高まる機運

とはいえ、世界的に見れば、eフューエルの機運は高まりつつある。ポルシェのパートナー企業Highly Innovative Fuels(HIF)社は、昨年12月にチリのハル・オニ工場でeフューエル製造を開始し、最近、米国テキサス州の第2工場の建設にゴーサインを出した。

独立系コンサルタントで、持続可能燃料の専門家であるCoryton社のアドバイザー、スティーブ・サップスフォード氏は、AUTOCARにこう語っている。「全体として最良の結果を得るために資源を利用することが重要です。再生可能エネルギーの問題については、再生可能エネルギーが豊富/過剰な場所でeフューエルを作るべきだというのが、主な主張です」

ポルシェはチリのハル・オニ工場でeフューエル製造を開始した。
ポルシェはチリのハル・オニ工場でeフューエル製造を開始した。

「ハル・オニ工場がチリにあるのは、このためです。太陽光や風力は国内消費量を上回る過剰エネルギーとなっていますが、そのエネルギーを電力として消費国の欧州などに輸出することは困難です」

「それならば、エネルギー密度の高い液体炭化水素を作るためにエネルギーを使う方が、世界中に輸送しやすく、はるかに魅力的です」

一部の自動車メーカー、特に少量生産のメーカーは、2035年以降もエンジンを維持するためにeフューエルを使用することに強い関心を示している。フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEOは最近、「ICEにはまだやるべきことがある」と述べ、英イネオス・オートモーティブのリン・カルダーCEOは「内燃機関は続くだろう」と断定的に予測した。

一方、ベントレーのエイドリアン・ホールマークCEOはAUTOCARに対し、eフューエルは「とてもエキサイティング」であるものの、脱炭素化において「他の必要性を代替する特効薬ではない」と述べている。英国政府はまだ、排出削減戦略にeフューエルを正式に組み込んでいない。

Coryton社の事業開発責任者であるデビッド・リチャードソン氏は、全面的な転換が必要だと考えている「舞台裏では、こんなこと(EVに切り替えて気候目標を達成すること)できるわけがないと、非常に心配している人たちがたくさんいるのです」

「わたしはどちらかというと、みんなが正直になり、自分自身をリセットしてほしいと思っています。短期的な視点ではなく、今、何が正しいことなのかを問いかけるのです」

カーボンニュートラル燃料はどう作られる?

――カーボンニュートラル燃料は、どのように作られるのか?
eフューエル:eフューエルは、「グリーン水素」(再生可能な電力で水を電気分解して作られる)と炭素(廃棄物系バイオマスや大気中の二酸化炭素を回収して作られることが多い)を使って作られる合成燃料の一種。大気中の炭素を吸収することで、燃料を燃やしたときに発生する排出量を相殺できると言われている。

バイオ燃料:英国のCoryton社が製造するバイオ燃料は、農業廃棄物などの有機バイオマスを原料としている。これはバイオエタノール(現在E5やE10としてガソリンに配合されている)に変換され、さらにバイオガソリンに加工される。バイオマスを栽培する際に大気から取り除かれた炭素は、自動車から排出する炭素を相殺すると言われている。インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究によると、産業界から出る廃棄物バイオマスは、欧州の小型商用車を脱化石燃料化するのに十分な量であるという。

カーボンニュートラル燃料の普及を阻むのは、奨励や補助といった枠組みがないことだという。
カーボンニュートラル燃料の普及を阻むのは、奨励や補助といった枠組みがないことだという。

――インセンティブでカーボンニュートラル燃料の製造を促進?
Coryton社のアドバイザーであるスティーブ・サップスフォード氏は、カーボンニュートラル燃料の普及を阻む最大の障壁は、そのためのインセンティブ(奨励金、補助金)がないことだと指摘する。「大手石油会社は、現在のCO2排出量算定制度では、このような燃料の生産はカウントされないので、今のところ投資するつもりはないと言っています。わたし達がここで算出できるCO2削減のどれもが、実際にはどこのシステムでもカウントされておらず、それが根本的な問題なのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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