FRの通称デイトナ フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ/スパイダー/コンペティツィオーネ 前編

公開 : 2023.07.02 07:05

高性能モデルの新水準に達していた、365 GTB/4「デイトナ」。公道の王者といえたフェラーリを、英国編集部がご紹介します。

熟成された完璧なパッケージング

ランボルギーニが、トリノ・モーターショーでまったく新しいミドシップ・シャシーを発表したのは1965年。数年後の1968年に発表されたフェラーリ365 GTB/4、通称「デイトナ」は、エンツォ・フェラーリ氏の決意で満ちたモデルといえた。

それまでの275 GTBは、前世代的に見えるようになっていた。だが、FRレイアウトを採用したいという気持ちに、抵抗することは難しかったのだろう。あるいは、従来的なフェラーリへの需要を、エンツォは察していたのかもしれない。

パープルのフェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタと、レッド/ブルー・ストライプの365 GTB/4 コンペティツィオーネ、レッドの365 GTS/4 スパイダー
パープルのフェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタと、レッド/ブルー・ストライプの365 GTB/4 コンペティツィオーネ、レッドの365 GTS/4 スパイダー

結果として、数字は彼の判断が正しかったことを証明した。1973年の製造終了までにラインオフしたデイトナは、ベルリネッタとスパイダーの合計で1406台。ミドシップ・スーパーカーという新たな潮流を生み出した、ミウラの2倍近い台数が売れた。

フロントにV型12気筒エンジンを搭載するフェラーリは、23年後の550マラネロまで空白ができるが、デイトナが残した影響は大きかった。「これまで試乗することができたモデルのなかで、最もエキサイティング」と、1971年9月のAUTOCARは評している。

新時代を告げるデザインと設計で、ミウラは人々を驚かせた。一方のデイトナは、熟成された完璧なパッケージングに仕上がっていた。素晴らしいシャシーを、魅惑的なピニンファリーナのボディが包んでいた。

ミウラに劣らず現代的でもあった。ランボルギーニのラインナップでは叶え難かった、長距離グランドツアラーとしての高い能力が備わっていた。

50年以上前のモデルとして、圧巻の動的能力

動的能力は世界最高水準。レーシングドライバーのダン・ガーニー氏とブロック・イェイツ氏によるドライブで、1971年に開かれた北米の公道レース、キャノンボール・ベイカー・シー・トゥ・シャイニング・シー・メモリアル・トロフィーを優勝している。

ニューヨークからロサンゼルスまで、約4628kmの距離を35時間54分で横断。平均時速は約128.9km/hを記録した。「280km/h(デイトナの最高速度)も出してはいませんよ」。と、後に冗談交じりでガーニーは記録を振り返っている。

フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ(1970年式/英国仕様)
フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ(1970年式/英国仕様)

同じ頃を生きたミウラも、最高速度は280km/hに達していた。どちらも1960年代後半から1970年代前半にかけて、世界最速の量産車という肩書きを得る実力を備えていた。

それでも、安定的に超高速域で走れる技術を展開できていたのは、フェラーリ。ランボルギーニは、フロントが浮き上がろうとする課題を解決するまでに5年を要している。

当時のAUTOCARが計測した数字を振り返ると、0-97km/h加速は5.4秒。0-400mダッシュは13.7秒で、到達速度は167.3km/hだった。209km/hから241km/hまでの中間加速も10秒でこなした。50年以上前のモデルとして、圧巻の内容だと思う。

デイトナの基本的なハードウェアは、先代の275 GTBから受け継いだものだった。そこからスーパーカー世代に準じた能力を引き出した、フェラーリの技術力には改めて感心させられる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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