FRの通称デイトナ フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ/スパイダー/コンペティツィオーネ 中編
公開 : 2023.07.02 07:06
難関ルートでも安心感は揺るがない
アクセルペダルを軽く踏み込む。スターターモーターが長くクランキングし、V型12気筒エンジンが目を覚ます。静かなアイドリングへ、すぐに落ち着く。
3枚のペダルは、やや右側へオフセットしている。ステアリングコラムは固定されているが、ドライビングポジションは良好。背もたれの角度は変えられず、腕を伸ばしたスタイルを強いられる。
5速MTのゲートは、1速が横に飛び出たドッグレッグ・パターン。回転数を上げ、英国ミルブルック・テストコースのアルペンルートへ飛び込む。
ここの区間は、どんな新モデルにとっても難関。しかし、デイトナの安心感は揺るがない。前方視界は良好だが、ワイパー手前でボンネットがフレアし、下方を少し遮っている。
アシストの備わらないステアリングホイールは、低速域では重い。フィードバックは濃密で、路面の影響によるキックバックも隠さない。ロックトゥロックは3回転で、比較的クイック。シフトレバーの感触はダイレクトだ。
デイトナは、カーブが連続する区間を揚々と進む。クラッチペダルもステアリングホイールも、正確に扱うには確かな力を必要とする。必死になるほどではないものの、全身を使って運転するタイプだ。
V12エンジンは、3500rpm付近から本領を発揮し始める。ウェーバー・キャブレターの2本めのチョークが開くと、多くのガソリンが送られ抑制が解かれる。4000rpmから6000rpmが最高の領域。崇高な内燃エンジン・サウンドが充満する。
大幅な補強が施されたデイトナ・スパイダー
トルクが太く粘り強く、低回転域から力強い。デイトナへ慣れるほど、高速域での安定性も高いことへ気が付く。不意の隆起部分を通過しても、ボディが翻弄されることはない。コーナーへ突っ込んでも、アンダーステアは抑えられている。
ミドシップ・スーパーカーのような、シャープなターンインや反応の緻密さまでは得ていない。しかし、半世紀以上前のグランドツアラーとしては稀有なほどに抱ける信頼感が、デイトナの体験を豊かにしている。
続いてレッドの365 GTS/4 スパイダーへ乗り換える。初代オーナーへ納車されたのは1971年8月。実は偶然にも、ヴィオラ・パープルの365 GTB/4 ベルリネッタと同じ、ケビン・マクドナルド氏がオーダーしたフェラーリだった。
デイトナのスパイダーは122台が生産されているが、右ハンドル車は7台のみ。現在のオーナーは32年間も大切に維持しており、フェラーリを得意とするガレージ、コッティンガム・ブルーチップ・ロンドン社が面倒を見ている。
スパイダーが発表されたのは1969年のフランクフルト・モーターショー。本来ファストバック・ボディで設計されただけに、ルーフの切除に伴い、大幅な補強がシャシーへ施されている。トランクリッドとフロントガラス・フレームは、スパイダー専用品だ。
ホイールもベルリネッタとは異なる。5スポーク・アルミのカンパニョーロ社製かクロモドラ社製ではなく、殆どがボラーニ社製のワイヤーホイールを履いていた。
この続きは後編にて。