FRの通称デイトナ フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ/スパイダー/コンペティツィオーネ 中編

公開 : 2023.07.02 07:06

難関ルートでも安心感は揺るがない

アクセルペダルを軽く踏み込む。スターターモーターが長くクランキングし、V型12気筒エンジンが目を覚ます。静かなアイドリングへ、すぐに落ち着く。

3枚のペダルは、やや右側へオフセットしている。ステアリングコラムは固定されているが、ドライビングポジションは良好。背もたれの角度は変えられず、腕を伸ばしたスタイルを強いられる。

フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ(1970年式/英国仕様)
フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ(1970年式/英国仕様)

5速MTのゲートは、1速が横に飛び出たドッグレッグ・パターン。回転数を上げ、英国ミルブルック・テストコースのアルペンルートへ飛び込む。

ここの区間は、どんな新モデルにとっても難関。しかし、デイトナの安心感は揺るがない。前方視界は良好だが、ワイパー手前でボンネットがフレアし、下方を少し遮っている。

アシストの備わらないステアリングホイールは、低速域では重い。フィードバックは濃密で、路面の影響によるキックバックも隠さない。ロックトゥロックは3回転で、比較的クイック。シフトレバーの感触はダイレクトだ。

デイトナは、カーブが連続する区間を揚々と進む。クラッチペダルもステアリングホイールも、正確に扱うには確かな力を必要とする。必死になるほどではないものの、全身を使って運転するタイプだ。

V12エンジンは、3500rpm付近から本領を発揮し始める。ウェーバー・キャブレターの2本めのチョークが開くと、多くのガソリンが送られ抑制が解かれる。4000rpmから6000rpmが最高の領域。崇高な内燃エンジン・サウンドが充満する。

大幅な補強が施されたデイトナ・スパイダー

トルクが太く粘り強く、低回転域から力強い。デイトナへ慣れるほど、高速域での安定性も高いことへ気が付く。不意の隆起部分を通過しても、ボディが翻弄されることはない。コーナーへ突っ込んでも、アンダーステアは抑えられている。

ミドシップ・スーパーカーのような、シャープなターンインや反応の緻密さまでは得ていない。しかし、半世紀以上前のグランドツアラーとしては稀有なほどに抱ける信頼感が、デイトナの体験を豊かにしている。

フェラーリ365 GTS/4 スパイダー(1971年式/英国仕様)
フェラーリ365 GTS/4 スパイダー(1971年式/英国仕様)

続いてレッドの365 GTS/4 スパイダーへ乗り換える。初代オーナーへ納車されたのは1971年8月。実は偶然にも、ヴィオラ・パープルの365 GTB/4 ベルリネッタと同じ、ケビン・マクドナルド氏がオーダーしたフェラーリだった。

デイトナのスパイダーは122台が生産されているが、右ハンドル車は7台のみ。現在のオーナーは32年間も大切に維持しており、フェラーリを得意とするガレージ、コッティンガム・ブルーチップ・ロンドン社が面倒を見ている。

スパイダーが発表されたのは1969年のフランクフルト・モーターショー。本来ファストバック・ボディで設計されただけに、ルーフの切除に伴い、大幅な補強がシャシーへ施されている。トランクリッドとフロントガラス・フレームは、スパイダー専用品だ。

ホイールもベルリネッタとは異なる。5スポーク・アルミのカンパニョーロ社製かクロモドラ社製ではなく、殆どがボラーニ社製のワイヤーホイールを履いていた。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

FRの通称デイトナ フェラーリ365 GTB/4 ベルリネッタ/スパイダー/コンペティツィオーネの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事