乗り心地と操縦性はクラス最上位 ホンダZR-Vへ英国試乗 シビックのクロスオーバー版

公開 : 2023.07.06 08:25

乗り心地と操縦性はクラスの最上位

荷室の容量は、このクラスでは小さめ。後席が使える状態で390Lとなるが、シビックの410Lより小さい。競合する日産キャシュカイ(旧デュアリス)は504Lある。床面はフラットで仕切りが内蔵され、デザインは工夫されているのだが。

後席は、ホンダフィットのように跳ね上がらない。乗り心地と操縦性を優先し、小さくまとまるトーションビーム式ではなく、マルチリンク式をリア・サスペンションへ採用したことが理由。燃料タンクが座面の下部にあり、構造的に不可能だった。

ホンダZR-V e:HEV アドバンス(欧州仕様)
ホンダZR-V e:HEV アドバンス(欧州仕様)

もっとも、ファミリー・クロスオーバーとして実用性が優先されても良かったと思う。観葉植物や家具など、大きなものを運びたい場面は少なくない。

そのかわり、適度な重み付けで反応の良いステアリングと、程よく引き締まった姿勢制御で、確かにコーナリングは優れる。サスペンションは少々硬めながら、減衰力の特性が良く、穏やかで落ち着いた乗り心地を備えている。

試乗したスペインの舗装に砂が浮いていたことを考えれば、グリップ力も低くない。複数用意されていた試乗車は、ミシュランダンロップのタイヤを履いていた。高速域での、風切り音も小さいようだ。

ホンダの狙い通り、このクラスのクロスオーバーとして、ZR-Vの乗り心地と操縦性は優秀。最上位に据えても構わないだろう。

全体的には優秀なシビックに届いていない

パワートレインの印象は、メカニズムを共有するシビックとは若干異なる。ZR-Vの車重が100kgほど重く、シビックに実装されるデジタルノイズ・キャンセリング機能が備わらないことが原因だろう。

シビックの試乗時にはノイズキャンセリングが目立たず働いており、特に触れることはなかったが、効果は小さくないようだ。ZR-Vでは明確にエンジン音が車内へ届き、比較すると質感はやや劣る。

ホンダZR-V e:HEV アドバンス(欧州仕様)
ホンダZR-V e:HEV アドバンス(欧州仕様)

アクセルペダルを傾けると、シビックと同様に滑らかに加速することが殆どだが、踏み込み具合ではエンジンの負荷が増え、回転数が高まる場面も。シフトチェンジした時のような、回転数の変化をシミュレートしたギミックも控えめだった。

燃費は良好で、ワインディングを積極的に走らせた区間も交えて、平均で16.4km/Lという結果になった。日常的な乗り方なら、17.0km/Lは狙えるだろう。

シビックをベースにしたクロスオーバーのZR-Vだが、差別化が小さく、結果として望ましくない比較関係が生まれている。モデル単体では優れているものの、さらに優秀なシビックへは全体的に届いていない印象がある。

他のメーカーも、ハッチバックとクロスオーバーでベースを共有することは珍しくない。しかし、明確な違いを与えることで、その事実を巧みに隠すのが通例なのだが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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