メルセデス・ベンツSL 500へ挑んだ AC ブルックランズ・エース 英製GTロードスター 前編
公開 : 2023.07.09 07:05
1980年代後半に登場した、R129型SLへ影響を受けたACカーズ。僅か58台が作られたロードスターを、英編集部が振り返ります。
R129型SLへ影響を受けたACカーズ
1980年代後半に生じた世界的な株価暴落、ブラックマンデーに襲われても、当時の富裕層には高価な2シーター・ロードスターを購入する余裕があった。端正なスタイリングの4代目メルセデス・ベンツSLは、多くの人を魅了した。
3代目を大きく上回る価格がR129型のSLへ設定されていたものの、ベルリンの壁が崩壊したドイツで、毎年2万台前後が生産された。株式市場が混乱に陥る傍ら、メルセデス・ベンツのディーラーには注文が止まらなかった。同社の目論見通りといえた。
成功者の象徴といえるような、オーナーを満たすグランドツアラーだった。ライバルはほぼ不在といえ、英国には年間1200台が割り当てられたが、納車待ちは最長4年に達したという。
現存する英国最古の自動車ブランドが、それに影響を受けたとしても不思議ではない。ACカーズを買収し、フォードから許可を得ながらコブラ Mk IVを生産していた当時のオートクラフト社にとって、事業を拡大する絶好の機会といえた。
ところが、新モデルの生産ではフォードと対立。「AC」ブランドの利用を認める裁判に500万ポンドを支払い、4年が費やされたが、オートクラフト社を創業したブライアン・アングリス氏の意志は最終的にカタチとなった。
アストン マーティンのように作られたTVR
果たして、1993年のロンドン・モーターショーでブルックランズ・エースは発表された。4.9L V型8気筒エンジンと後輪駆動のシャシーは、英国のインターナショナル・オートモーティブ・デザイン社がスタイリングしたボディで包まれていた。
ドアミラーはシトロエンCX、ヘッドライトはBMW 3シリーズ、ドアハンドルはフォード・フィエスタ由来だったが、まとまりのある仕上がりを得ていた。当初はフォード製V6エンジンに、四輪駆動システムを搭載したモデルが想定されていたという。
以前から、フォード由来のメカニズムをコブラ Mk IVへ利用してきたオートクラフト社にとって、実績のある既存部品を用いることは自然な選択肢だった。開発費用を抑えられ、信頼性が担保され、部品を入手しやすいというメリットがあった。
SLが定義した、高性能で多目的な高級スポーツカーが目指されていた。「実用的なスポーツカーの頂点へ位置するSLのような、普段使いできるクルマです」。と、1992年にオートクラフト社へ加わったジョン・ミッチェル氏は振り返っている。
「SLに接近することができれば、1つ大きな目標を達成したといえます。しかし、クラシカルな英国製ロードスターでもあります。アストン マーティンのように作られた、TVRと呼んでも良いでしょう」
彼は、フォードのスペシャル・ビークル・エンジニアリング部門から移籍してきた腕利きの技術者。高性能モデルに対する経験は豊富だった。