メルセデス・ベンツSL 500へ挑んだ AC ブルックランズ・エース 英製GTロードスター 後編
公開 : 2023.07.09 07:06
刺激的なブルックランズ・エースのカーライフ
この頃のメルセデス・ベンツを複数台所有するオーナーのトーマス・ハワース氏は、「マッスルカーでクルーザーです」。と500 SLの特徴を説明する。
「製造品質には驚かされます。オリジナルの部品は、とても耐久性が高いんです。購入時には、AMGのモノブロック・アルミホイールを履いていましたが、本来の純正ホイールを探すのには苦労しました」
「燃費は飽きれるほど悪いですが、週末にしか乗らないので、あえて計算していません」。とハワースが笑う。これまで、目立ったトラブルには見舞われていないそうだ。
他方、R129型SLをライバルに見立てたブルックランズ・エースは、完全には並べていないことを実感する。現オーナーのパトリック・モイニハン氏のように献身的なマニアでなければ、今日での状態の維持は難しいだろう。
「フォードの部品には、ベース・モデルの年式に準じたナンバリングが与えられています。しかし、それ以外の部品はわからないことも多いんです。サスペンションのボールジョイントが古いジャガー420由来だと、最近自分で発見しました」
モイニハンは、刺激的なカーライフを楽しめるとも話す。2000年に注文したジャガーをキャンセルし、この1997年式を購入したことへ後悔はしていないという。
カリスマ性を感じる英国製グランドツアラー
ACカーズは1993年から1996年の4年間に、ブルックランズ・エースを46台しか販売できなかった。約5万ポンドの価格で、年間300台から400台を生産するというオートクラフト社の読みは甘すぎた。当初から財政的には厳しかった。
破綻後、1997年からも再起をかけて提供は続いたが、12台をラインオフしたところで力尽きている。同時期に、TVRとアストン マーティンからグランドツアラーが発売されたことも影響を及ぼしたはず。歴史ある英国ブランドの挑戦は、短く終わってしまった。
他方、メルセデス・ベンツはコンピューター制御の時代を迎え、大量生産の体制を整えていった。R129型は絶え間なく小改良を受け、2度のフェイスリフトが施され、ツインスパークで気筒あたり3バルブのV6とV8エンジンも投入。2001年まで生産は続いた。
それから20年以上が経過した今でも、当時に目指された最高の洗練性や動力性能が生む訴求力は揺るがない。唯一といえる威厳を、端正なボディが漂わせている。
それでも、英国製のグランドツーリング・ロードスターとして、ブルックランズ・エースにある種のカリスマ性を感じずにはいられない。設計水準は低くなく、多少の欠点はあるとしても、グレートブリテン島の田園地帯をクルージングするのに完璧だと思う。
協力:オールド・レッド・ライオン・リッチボロー