中古車販売最大手ビッグモーター またも民間車検「指定取り消し」行政処分 処分までの経緯は

公開 : 2023.06.27 18:25  更新 : 2023.07.19 11:56

速度計の誤差測定なぜ実施せず?

速度計の誤差測定とは速度計が正しい速度を示しているかどうかの検査である。誤差が許容範囲であれば保安基準適合とみなされるが、誤差が基準値を外れていれば車検には通らない。

ユーザー車検をしたことがある人ならわかると思うが、ローラーの上にクルマをのせてアクセルを踏み込み、スピードメーターが40km/hを示したところでパッシングなどで合図をする。平成19年以降の車両では、その時の正しい速度が31km/h-42.5km/hであれば合格だ。

熊本浜線店も宇都宮南店も「検査項目である速度計の誤差の検査を実施していなかったのに、基準に適合しているとして保安基準適合証を交付した」ことが指定取り消しの行政処分につながっている。

では、なぜ検査をしなかったのか? これについては2021年秋までビッグモーター熊本浜線店で車検を担当していた(現在は退職)整備士の方々に以前聞いていたので改めてまとめてみよう。

「車検台数のノルマをこなすため、手間のかかることはしなくていい、という指導がありました」

「4WD車の場合は、専用の器具が必要でその器具を持ってくるのに手間がかかるため測っていませんでした」

「また、輸入車の中には測りにくい構造の車種もあり、強制的にローラーに載せてはかろうとすると輸入車特有の敏感なセンサー類が異常を検知(ブレーキ系統やABS異常)して警告が表示されてしまうんです。そうすると、診断機を繋いでその警告を消す作業をしなくてはなりません」

「そこでも作業がとまってしまい手間が増えます。だから最初から輸入車の速度計は誤差の測定をおこなっていなかったのです」

指定取り消しになったらどうなる?

ビッグモーターとしては今回、2件目となる「指定取り消し」。車検不正に関する処分の中でもっとも重い処分といってよいだろう。

そもそも、「指定自動車整備事業」とはいわゆる「民間車検場」のことで、規定の検査設備を有するなど一定の要件を満たした場合に地方運輸局長から指定を受けて車検事業をおこなうことができる。

運輸支局に持ち込んで車検をおこなう必要はない。つまり、国に代わって車検整備がすべて自店舗内の工場で実施できる。

国が認可する整備工場には指定工場の下に位置する「認証工場」があるが、認証工場では分解整備など車検に関わる整備をおこなうことはできるものの、車検じたいは最寄りの運輸支局などに出向いて検査ラインを通す必要がある。

指定を取り消されると1台ずつ、運輸支局に持ち込んで車検を通すことになり、大変な手間と時間を要することになる。

指定工場の資格を再度取得するには最低でも2年が必要とのことなので、ビッグモーター宇都宮南店ではこれから最低でも2年間は栃木運輸支局などに持ち込んで車検を通すことになる。

3月に指定取り消しの処分を受けた熊本浜線店でも取り消し以降、熊本運輸支局などに積載車に載せるなどして車両を運んで、車検を通しているとのこと。

なお宇都宮南店で検査項目を実施していなかった58台はこれから再度車検を受けることになる。ビッグモーターもこの車検のやり直しに関しては、費用を徴収することはないとは思うが……。指定工場としてのコンプライアンスなど著しく低い、というかゼロに等しい会社であるので油断はできない。

車検に限らず、クルマの購入/買取/車検/整備/保険などあらゆる面で不正が堂々とおこなわれている現状を目の当たりにしている。

その店が優良な店かどうか? 正しい整備や車検がおこなわれているか? グーグル・マップ上のクチコミ(★1つなど低い点数)などを参照して十分に自衛して臨んで欲しい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    加藤久美子

    Kumiko Kato

    「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難/詐欺/横領/交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。自動車メディア以外ではFRIDAY他週刊誌にも多数寄稿。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。クルマ英才教育を施してきた息子がおなかにいる時からの愛車で思い出が多すぎて手放せないのが悩み。

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