「BEVはもっと先のソリューション」 小規模メーカーの課題 重量増、サプライチェーンに欠点

公開 : 2023.06.29 18:25

英国のスポーツカーメーカーであるBACは、ゼロ・エミッション車の開発に意欲を示しつつもバッテリーEVには課題が多いと指摘します。水素燃料電池車も手掛ける同社はどのような道を模索しているのか、設立者に尋ねました。

供給体制に課題 大手メーカーが強化すべき

小規模メーカーが電動スポーツカーを開発する前に、大手メーカーがサプライチェーンを強化する必要があると、BACの共同設立者であるニール・ブリッグス氏はAUTOCARに語った。

英国のスポーツカーメーカーであるBACは、2021年に水素燃料電池車コンセプト「Eモノ」を発表するなど、少量生産のゼロ・エミッション・スポーツカーの開発を推進している。

BACは軽量スポーツカー「モノ」で知られる英国のメーカーだ。
BACは軽量スポーツカー「モノ」で知られる英国のメーカーだ。

BACによると、Eモノは既存のエンジン車であるモノR(サーキット特化モデル)より149kg重いにもかかわらず、シルバーストン・サーキットを2.0秒以上速く走れるという。

ブリッグス氏は現在、電気モーターが「(最適な)パワートレイン」であると「確信している」としながらも、「どこからパワーを得るかは非常に複雑な問題」と語った。主要メーカーからのパワートレインの供給やインフラの不確実性など、さまざまなハードルがあるためだ。

「わたし達にとっての最大の課題は、これまで製造してきたすべての車両で、パワーユニットの開発を(大手メーカーに)依存してきたことです。わたし達はそのパワーユニットを手に入れ、改良し、ビスポークし、あらゆることを施し、クルマに搭載しているのです」

「EVの分野でもまったく同じように依存しています。現時点では、よく知られていると思いますが、すべての主要ブランドのサプライチェーンと、彼らが必要とする(ボリュームの)増加に課題があります」

「ニッチなメーカーが、部品を確保できるようにとドアを叩いてくるのは、彼らが一番望んでいないことです。わたし達はその部品を手に入れ、クルマを再設計し、再テストし、再開発する必要がある。だから(電動化の)リードタイムはとても長いのです」

「入手可能になれば、わたし達は参入するつもりです。燃料電池車コンセプトのEモノで示したように、わたし達はかなり迅速に対応することができます」

ブリッグス氏は、技術そのものにさらなる開発が必要だとは思わないが、「ハードウェアの可用性を変える必要がある」と述べた。「ハードウェアが手に入り、すぐに使えるようになれば、もちろん対応して前進することができるでしょう」

バッテリーは重く有用ではない

現在のバッテリーEVのパワートレインは、その重量ゆえにBACにとってまだ有用なソリューションとは言えない。重量増に対応できる新しいプラットフォームを開発しなければならないからだ。

「わたし達は燃料電池を非常に強く支持していますが、正味の重量増加は約100kgです。バッテリーEVの場合、これが300kgか400kgになるでしょう」

BAC Eモノでは、足回りを大きく変えることなく水素燃料電池を搭載できたという。
BAC Eモノでは、足回りを大きく変えることなく水素燃料電池を搭載できたという。    BAC

「現在のプラットフォームは、重量の増加に対し、サスペンションやタイヤ、ブレーキをすべて再設計することなく燃料電池を扱うことができます。車重900kgのバッテリーEVになると、まったく新しいクルマになってしまいます」

「だからといって、(バッテリーEVが)可能性のないソリューションだと言っているわけではありません。ただ、もっと先のソリューションだということです。バッテリーEVが必要だと判断されれば、法制化されることになるでしょう」

「これはベータマックスとVHSのようなもので、ある時点で誰かがVHSだと言い出し、みんながその道を歩むことになるのです」

水素インフラが不足していることと、バッテリーEVパワートレインに関するプラットフォームの限界から、BACの焦点は短期的に「合成燃料の方にシフトしている」という。

ブリッグス氏は、同社のラインナップを脱炭素化する手段として、カーボンニュートラルな合成燃料で稼働する既存の内燃エンジンを検証するのは、現時点ではそれほど時間がかからないと述べている。

「現在の内燃エンジンなら使えます。ダイノで走らせることもできます。クルマに載せて、1万マイルの耐久テストを行えば、3か月以内に結果を知ることができるでしょう」

「もちろん、クルマを少しエンジニアリングし直す必要はありますが、それほど大きなものではありません」

しかし、水素と同様、eフューエルのようなカーボンニュートラル燃料は、まだBACが拠点を置く英国全土で広く利用できるものではない。

「例えば、これらの燃料がレーストラックで簡単に入手できるようになれば、人々の認識も変わるでしょう。サーキットまでクルマを走らせ、そこで燃料を補給し、サーキットでクルマを使い、また燃料を補給し、そのまま家に帰ることができるのですから」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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