伯爵が愛したトポリーノ フィアット500 ブルー/ブラックのレーシングカラー 後編

公開 : 2023.07.22 07:06

レーシングドライバーでもあった伯爵が愛した、小さなトポリーノ。見事な復活を遂げた500を、英国編集部がご紹介します。

オリジナル状態を保っていたトポリーノ

英国のクラシックカー・オーナーを支える、ビスター・ヘリテージ社の創設者でCEOを務めるダン・ジオゲガン氏が、ブルーとブラックのフィアット500 C トポリーノを発見したのは2016年。RYF 858のナンバーをぶら下げていた。

「状態の悪くないマイナー・トラベラーがあると聞いて、ウィートリーという町を訪ねた時でした。そのオーナーは、ほかにもう1台、保管してあると切り出したんです」。とダンが振り返る。

フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)
フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)

第5代ハウ伯爵のツートーンカラーが残っていた小さなフィアットは、乾燥されたガレージに眠っていた。数10年放置されていたが、ライトグリーンのシートやナンバープレートに至るまで、完全なオリジナル状態を保っていたという。

「飛び石傷や塗装の風合いも含めて、できるだけ本来の状態を保とうと思いました」。とダンが振り返る。

それでもソフトトップは傷み、バンパーも錆びていた。「サンルーフは交換し、バンパーはクロームメッキし直しています。エンジンのリビルドには多くの時間を割きました。機械的に手を加える必要がありました」

現在のエンジンルームは、見事な状態を取り戻している。当時と同じレッドにブラックの模様が入った点火コードや、カクテルシェーカーのようなブレーキのリザーバータンクが、落ち着いた色彩のなかで主張する。

ラジエターが高い位置にあり、約20L入る燃料タンクの両脇を通って、温かい空気が車内へ導かれる。ガソリン補給には、ボンネットを開く必要がある。

ナンバープレートが不自然に大きく見える

全長は短いものの、ボディのプロポーションは均整が取れている。車内にはバックミラーと室内灯、サンバイザー、遠隔で動かせる換気用のフラップなど、当時の小型車の水準を超えた装備が整っている。

ソフトトップには、充分な大きさのリアウインドウも備わる。共通規格のナンバープレートが、不自然に大きく見える。

2016年にフィアット500 C トポリーノが納屋から出される様子
2016年にフィアット500 C トポリーノが納屋から出される様子

このトポリーノは、1949年に登場した後期型の500 C。最高出力は16.5psへ上昇しており、恐らく最高速度は現実的に95km/h程度出るだろう。角ばったフロントノーズのデザインと、テールライト、バンパーのオーバーライダー、ウインカーなどがCの特徴だ。

シャシー側では、1948年から1949年という短期間に提供された、中期の500 Bと多くを共有している。オーバーヘッド・バルブのエンジンや、リーフスプリングのサスペンションなど。重力式ではなく、機械式の燃料ポンプはCだけの装備となる。

リアヒンジのドアは、大きく開き乗り降りしやすい。横方向の空間を広げるべく、内装パネルが凹型にくびれている。

オリジナル状態のバケットシートは、見た目以上に座り心地が良い。足元の空間は限定的で、クラッチやブレーキのペダルを踏もうとすると、慣れるまでは足がステアリングコラムとぶつかりがちだ。

キーを挿しイグニッションをオンにし、スターター・ノブを約10cm引くと、569ccエンジンが目を覚ます。一連の手順が好ましい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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