ステア・バイ・ワイヤの仕組み 未来的だけど実は単純 さまざまな可能性に期待?

公開 : 2023.07.11 06:05

ステアリングホイールとタイヤが物理的に繋がっていないステア・バイ・ワイヤ。複雑に見えても構造的には単純で、製造や走行性能、運転のしやすさ、安全性、自動運転などさまざまな面でメリットがあるとされています。

メーカー側にもメリット 最終的なゴールは?

ステア・バイ・ワイヤは、これまで数十年もの間、傍流にとどまってきた技術の1つで、一部の市販車やレースでの採用例を除けば、主流の量産車には採用されていない。

しかし、今年トヨタbZ4Xに導入され、2024年にはレクサスRZ 450eに搭載される予定だ。インフィニティは約10年前にQ50に導入したが、万が一に備えてステアリングコラムが残っていた。

レクサスRZには、通常のステアリングと並行してステア・バイ・ワイヤ技術が導入される
レクサスRZには、通常のステアリングと並行してステア・バイ・ワイヤ技術が導入される

真のステア・バイ・ワイヤーは、ステアリングホイールとステアリングラックの間に機械的な接続がなく、電子的なリンクがあるだけだ。トヨタとレクサスのワンモーショングリップはこれにあたる。

一見いかがわしいコンセプトに見えるが、メーカーにとってもドライバーにとってもメリットは多い。ステア・バイ・ワイヤは、何年も前から実用化されている電子制御スロットルのようなドライブ・バイ・ワイヤの広いカテゴリーに属する。メーカーにとっての利点の1つは、作動油を使用しない「ドライ」シャシーを製造できる可能性があることだ。

ステアリングに関しては、電動パワーステアリングの導入によって解決されたが、ブレーキ・システムは依然として油圧式である。大手部品メーカーは何年も前から完全電動ブレーキ・システムの開発に取り組んできた。

この電動ブレーキというのは、車両の各サスペンションコーナーがあらかじめ組み立てられ、生産ライン上で固定され、文字通りプラグインされることで、面倒な作動油やそれに伴うすべてが不要になるというものだ。

ステア・バイ・ワイヤ・システムは、機械的にはさらに単純だ。ステアリングホイールがゲーム機のようにコントロールユニットを動かし、ステアリングラックのモーターが実際に車輪を動かす。

この2つをつなぐコンピュータの頭脳が、ドライバーのステアリング入力から信号を受け取り、ステアリングラックに中継する。注意点は、車輪の動きを決定するのはコンピューターであり、必ずしもドライバーではないということだが、その利点は、ステアリングロックをほぼ無段階に変えられるということ。トヨタとレクサスの場合、駐車時の低速度でステアリングホイールのターンを左右わずか150度まで減らすことができる。

この比率(ステアリングレシオ)は車両がスピードを上げるにつれて小さくなり、高速道路では挙動が不安定になるのを避けるために反応が鈍くなる。

ステア・バイ・ワイヤは、事故回避のような半自動的な安全システムの可能性を開くものでもある。万が一の際にドライバーが素早く反応できなかった場合、車両側がステアリングを切り、文字通りトラブルの回避を試みることができる。

また、運転が苦手なドライバーにとっては、小型ホイールやジョイスティックで運転することも可能になる。民間および軍用の航空機分野でも長年フライ・バイ・ワイヤ・システムが使われてきたが、このシステムは完全に冗長化されており、重要なハードウェアやソフトウェアの部品が故障した場合でも、すぐに対応できるよう機械式のバックアップが用意されている。

つまるところ、自動運転車には完全なステア・バイ・ワイヤが必須であり、そのため今後数年間は多くの新発表を目にすることになるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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