コッシー伝説の始まり エスコート RSコスワース 高性能フォード:欧州での60年(4)
公開 : 2023.07.30 07:05
3500rpmを超えるとパワーが急上昇
肝心の4気筒エンジンは、コスワースのチューニングでYBT型へ進化。最高出力は227psまで引き上げられた。
世界ラリー選手権の参戦に求められた規定の量産数は、2500台。ホモロゲーション取得のため、1992年の終わりまでに急ピッチで台数が揃えられた。
初期のエスコート RSコスワースで弱点といえたのが、大径タービンがゆえのターボラグ。だが、ギャレットT3/T04ターボがブースト圧を高めれば、怒り狂ったかのように突進した。このドッカンターボの個性が好きだ、という人も少なくない。
今回ご登場いただいたブラックのエスコート RSコスワースは、後期型の1996年式。小径のターボが組まれており、型式もYBPユニットへ改められている。
ギャレットT25ターボが比較的滑らかにブースト圧を生み出し、市街地でも扱いやすい。3500rpmを超えると、目に見えてパワーが急上昇していく。やはりホットハッチらしく機敏に走るには、タービンの回転数を保ち続ける必要がある。
ラリードライバーを意識しながら積極的にアクセルペアルを傾ければ、秘めたスリリングさを堪能できる。トルクを34:66の比率で前後に割り振るセンターデフによる四輪駆動で、グリップ力は非常に高く、コーナリング・スタンスの調整もしやすい。
幅が8Jもあるワイドなホイールを覆うべく、フェンダーは明確に膨らんでいる。軽量化と相まって、動的能力は間違いなく高い。多くのラリーチームが、好んで選んだ理由が良くわかる。
モータースポーツと切っても切れない関係
ボディはコンパクトになり、敏捷性はシエラの比ではない。それでいて、不安定になるほどホイールベースが短いわけでもない。実際、WRCでも少なくない勝利を掴んだ。技術的に一歩先を行く日本メーカーに苦戦し、年間タイトルは奪えなかったが。
それでも、RSコスワースはモータースポーツと切っても切れない関係にある。ラリーステージでの勇敢な走りと栄光が、ロードカーの支持へ結びついていた。
エスコート RSコスワースの魅力を深く堪能するなら、ラリーステージのように徹底的に攻め込むのがいい。迫りくるコーナーへ集中している限り、ベーシックなエスコートと殆ど変わらない内装のことも忘れられる。
高級感を期待してエスコート RSコスワースを選ぶ人は、1992年にもいなかったとは思う。それでも、シエラ XR4iなど前世代のモデルと乗り比べると、安普請感は否めない。
レイアウトは整っていても、ダッシュボードの製造品質は高くない。積極的に扱えるタフな操縦系も、低速域での味わいでは洗練性が足りていない。英国価格は同時期のBMW 5シリーズと並んでいたが、インテリアで特別感を漂わせる部分は殆どない。
唯一、レザーシートはエスコート RSコスワースの専用アイテムだった。しっかりサイドボルスターも立ち上がっている。