有能なベーシックカーが最高の素材 フォーカス ST170 高性能フォード:欧州での60年(5)
公開 : 2023.07.30 07:06
ピーキーさがなく驚くほど扱いやすい4気筒
アクセルペダルを蹴飛ばすと、ブワーッという吸気音がドライバーの気持ちを鼓舞する。空気を沢山吸えるよう、スポーツ・エアフィルターに交換されていることが通例だが、今回のガンメタリックのフォーカス ST170は完全なストック状態にある。
ハイチューニングのツインカム・エンジンらしいピーキーさはなく、驚くほど扱いやすい。トルクが重視された、4気筒エンジンのように振る舞う。だが、5000rpmを超えた辺りから秘めた荒々しさを表現しだす。
このエンジンは、傑作として注目を集めた。エスコート Mk2へ換装させたいと考える人が多く、フォーカス ST170の残存数が減じたことは、予期せぬ結果といえる。
エンジンだけでなく、SVEは素性の優れたシャシーを一層磨いた。サスペンションは引き締められ、ステアリングラックはクイックに。変化度合いは小さかったものの、快適な乗り心地はそのままに、走りの鋭さは高められていた。
ショーン・マッケイブ氏にお持ちいただいたフォーカス ST170の場合、インテリアはオプション仕様。2019年に彼が買い取るまで、初代オーナーが維持してきたクルマで、カスタムパッケージが組まれている。
レザーのレカロシートが、注目のアイテムといえる。標準では、センター部分がブルーのクロスで仕立てられた、ハーフレザー・スポーツシートが載っていた。初代フォーカスのベーシックなシートはフラットな形状だったため、有用な装備になった。
有能なベーシックカーを素材にしたレシピ
着座位置はレカロシートのおかげで若干落ちているものの、ドライビングポジションは高め。ボンネットを見下ろすような目線になる。メーターは、文字盤部分がホワイトの専用品だ。
見た目の印象は、モンデオ ST200に通じる。フォーカス ST170の場合、エレクトリック・ブルーと呼ばれる鮮やかな塗装が定番だった。マルチスポークの17インチ・アルミホイールに専用フロントバンパー、低く構えたスタンスが違いを主張する。
初代フォーカスにST170が登場したのは、世代末期の2002年。販売期間は2005年までの3年弱と短く、フォーカス RSの復活も予告されたことで、若干影の薄い高性能フォードという立場にある。
それでも、その後のフィエスタ STと、2代目フォーカス STへしっかりバトンを繋ぎ、成功を掴む土台になったことは間違いない。有能なベーシックカーを素材に、秀でたドライバーズカーを仕上げるという、フォードのレシピを見事に体現させていた。