無二のミケロッティ・コンバーチブル フェラーリ166/195S インター 2.3L V12へ置換 後編

公開 : 2023.08.06 07:06

コロンボ設計の初期のフェラーリ・ユニット

フロントヒンジのボンネットを開くと、巨匠、ジョアッキーノ・コロンボ氏が設計した初期のフェラーリ・ユニットが姿を表す。ウェットライナーとカウンターバランス・クランクが組まれた、バンク角60度のV型12気筒だ。

トリプル・ウェーバーキャブレターや、ツイン・ディストリビューターが整然と並んでいる。アルミ合金のシルミン材を用いたショートストロークの傑作といえ、広々としたエンジンルームの低い位置に収まっている。

フェラーリ166/195 インター・コンバーチブル(1951年/欧州仕様)
フェラーリ166/195 インター・コンバーチブル(1951年/欧州仕様)

機械として美しく、気高さすら感じられる。ベーシックな技術で構成されたシャシーとは、対象的なほど。

初期のフェラーリと同様に、この166/195S インター・コンバーチブルも右ハンドル。その理由は、時計回りで周回することが多い欧州のサーキットに適していたため。アルプス山脈の狭い峠道では、視界の確保に有利でもあった。

ステアリングホイールは、リベットが打たれたウッドリム。ドライバーの正面には、油圧と燃料、水温が組み込まれた巨大なメーターが置かれ、その隣に1万rpmまで振られたタコメーターと、240km/hまで振られたスピードメーターがレイアウトされる。

ダッシュボードのスイッチには、ライトやワイパーなど、機能のラベルが後年になって貼られている。運転席は居心地が良く、背もたれの後方には手荷物を置くのにちょうどいい、カーペット敷きの空間がある。

3枚のペダルはフロアヒンジ。フロアの造形は複雑で、丁寧な加工がうかがえる。

多くのクルマ好きを惹き付けてきた音響体験

おもちゃのように大きいカギをダッシュボードへ差し込み、スターターボタンを押す。トリプルチェーンやタペットが放つ金属的なノイズとともに、V型12気筒2341ccエンジンが目覚める。12本の小さなシリンダーが、滑らかな自然吸気の燃焼音を放つ。

これまで70年以上、多くのクルマ好きを惹き付けてきた音響体験だ。裕福なオーナーの銀行残高へ、多少の影響を与えてきた美声でもある。

フェラーリ166/195 インター・コンバーチブル(1951年/欧州仕様)
フェラーリ166/195 インター・コンバーチブル(1951年/欧州仕様)

1500rpmから滑らかに吹け上がる。力強いものの、爽快な加速を得るには充分に回転数を高める必要がある。

フロアから長いシフトレバーが突き出ているが、「王」型の磨かれたゲートはない。4速がダイレクトドライブで、5速はオーバードライブ。変速しやすくするシンクロメッシュは、一部にしか備わらない。

慎重にタイミングを図る必要はあるが、理解すればテンポよくギアを変えられる。メカニカルな感触が心地良い。

低いギアでは、アクセルペダルを僅かに傾けるだけでV12エンジンの回転数が大きく変化する。このレスポンスこそ、ショートストローク型ユニットの開発に至った大きな理由だ。気持ちいいサウンドに包まれながら、3速、4速と速度を高めていく。

ステアリングホイールは、アンダーステアに転じた場面を除いて、適度な重さで滑らか。ロードホールディング性も高く、正確に反応し、挙動は予想しやすい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ティム・スコット

    Tim Scott

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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