メルセデス・ベンツS63 AMG 4マチック ロング

公開 : 2014.03.26 19:18  更新 : 2017.05.23 16:38

ステアリングも別物だった。可変ギヤ比システムが組み込まれた基準車の電動アシスト操舵系は、旋回の初期と後期でヨー運動が位相ズレを発生させるという、この手の機構が陥りがちな罠に見事に陥っていたが、S63 AMGの操舵系にそういう不始末は見られない。中立付近の舵感と前輪の仕事ぶりは噛み合っているし、切った先で微舵を出し入れするときのフィール混濁もない。気になるところと言えば切り込む際の反力の軽さに比べて一定舵での保舵力が重い不均衡があるくらい。半年前の状態を思えばかなり上出来な操舵系の仕上がりである。

それに連動するシャシー側の仕上がりも刷新されていた。ステアリングを切るとフロント外側が沈み、暫しおいてそれに連れてリヤが沈み込み、前後のグリップバランスがとれた麗しい姿勢でクルマは旋回に入る。しかもこのときのリヤの振る舞いが素敵だ。585psと91.8kgmを受け止めるリヤ──4WDはあるが半分以上が後輪に流される──は安定を最優先してセッティングされて当然だが、このクルマは後ろが嫌らしく粘らないのである。爽やかにスリップアングルを微増させていって旋回は清々しく進んで終わる。これではリヤが軽すぎるのではないかと負荷を増して振り回してみても、リヤは同じ爽やかさを維持したまま必要なだけの安定を示す。実に懐深いアシである。ちなみに緩衝機構は、基準車と同じダンパーと空気ばねとそのリテーナ位置を可変させる電制の姿勢制御機能つきなのだが、AMGだからといって無闇に硬めた印象はない。コンフォートとスポーツを切り替えても、脚が縮む方向にはさほどの差はなく、縮んだ反動で伸びあがるときの上屋の抑え込み能力が変わるくらいの印象だ。

とどめにエンジンの高負荷域まで好印象だった。ダウンサイズ過給を絶対正義とするドイツ勢は、V8級にもその方策を布いた。だが彼らは250km/h速度上限を協定する。それがゆえにEセグメントあたりに積まれたドイツ勢のV8ターボは、250km/hまででブーストを使い切る設定になっている。そこまでの加速パンチの強烈さを売りにしているのだ。ところがS63 AMGは、その過給の仕込みも上手く、途中で妙にトルクが炸裂することもなければ、上でブーストがタレる様子もない。おそらく250km/hで加速はきれいに収束するのではないか。

フロントサブフレーム起因のガサゴソした振動が残り、それが隔壁部などの入念な遮音材の投入により余計に気になるというW222系の欠点は依然、払拭され切ってはいないが、その他の粗さはかなりのところで消された。現状でS63 AMG 4マチックは基準車を引き離してW222系Sクラスのなかではベストのグレードだと考える。

(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)

メルセデス・ベンツS63 AMG 4マチック ロング

価格 2406.8万円
0-100km/h 4.0秒
最高速度 250km/h
燃費 9.7km/ℓ
CO₂排出量 242g/km
車両重量 2190kg
エンジン形式 V8DOHCツインターボ, 5461cc
エンジン配置 フロント縦置き
駆動方式 4輪駆動
最高出力 585ps/5500rpm
最大最大トルク 91.8kg-m/2250-3750rpm
馬力荷重比 267ps/t
比出力 107ps/ℓ
圧縮比 10.0:1
変速機 7段A/T
全長 5295mm
全幅 1915mm
全高 1500mm
ホイールベース 3165mm
燃料タンク容量 80ℓ
荷室容量 480ℓ
サスペンション (前)4リンク
(後)マルチリンク
ブレーキ (前)φ390mm Vディスク
(後)φ360mm Vディスク
タイヤ (前)255/45R19
(後)285/40R19

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