BMW i3
公開 : 2014.03.26 18:32 更新 : 2017.05.29 17:59
インテリアにおける新しさの表現も巧妙だ。ミドシップ・パッケージ(しかも大げさな熱交換機も不要)を存分に利して、ダッシュボードはスリム。従来のメーターナセルも排して、メーターパネルはスマホのような薄型液晶が浮いているだけ。ステアリングコラム以外はすべてが薄くてスリム。シートも新開発の軽量薄型なのだが、ハッキリいうとホールド性はホメられない平板なタイプ。このあたりはBMWらしからぬ割り切りで、市場からなにかしらの不平が出そうな点といえなくもない。だが、これが「もう青筋を立ててコーナー曲がる時代じゃない」というiシリーズの意図的な主張だとすれば、時代も変わったものだ。
EVといえばエンジン車とは別物の加速性能が売りだが、i3の加速レスポンスは特にすさまじい。0→100km/h加速が7秒台というと、ルーテシアRSやミニ・クーパーSなどのBセグの頂点ホットハッチのチョイ落ちくらいなのだが、0→60km/hまでは4.5ℓ級、瞬間的なダッシュ力ではM3の鼻先を制するほどのレベルで、気を抜いていると「首が……」と心配になりそうなくらいのロケットぶり。モーターやバッテリーなどのスペックはリーフと似たようなものだが、アルミの土台にカーボンのアッパーボディ、外板は樹脂……という超軽量設計のi3の車重は、ノーマルモデルだとリーフより200kg近くも軽いのだ。
さらに、右足をスロットルペダルから離したときの回生ブレーキが、最初はギョッとするほど強力。i3のパワーフィールで加速力以上に印象的なのが、じつはここである。強力な回生ブレーキはミニE以来のBMWのEV共通の特徴でもあり、そこには積極的に回生充電する効率面だけでなく、走りの味つけという意図もあるように思える。i3では、いつもの要領で右足をパッと離してしまうと、シートベルトが身体に食い込むくらいの減速Gが立ち上がってしまうのだ。i3で同乗者(や後続車)に不快感や恐怖感を与えないためには、右足をペダルにつけたまま微妙に加減速をコントロールするワザが不可欠。これはi3をきれいに走らせるための独特のコツとなるだろう。
i3も“伝統の50:50の重量配分”をうたうが、空車乗車の車検証重量では、ノーマルモデルが47:53、電動モーターの横に充電用2気筒エンジンが追加されるレンジエクステンダー仕様では44:56……と、リヤ寄りの配分となっている。実際のドライブフィールでも、i3と最もよく似た既存車の例は、そのレイアウトから予測されるとおり、三菱i(アイ)、もしくはメルセデスのスマートといった小型リヤエンジン/ミドシップ車である。軽い前軸荷重と細いタイヤの組み合わせなので、基本的にはきっちりと前荷重しないとスムーズにターンインしてくれないが、件の回生ブレーキのおかげでスロットルペダルから右足の力をぬくだけで自然とフロントを沈めた姿勢となる。少なくとも今回の屋久島のような穏やかなアップダウン路では、ブレーキペダルを踏んで意識的に荷重移動させる必要はほとんどないのが面白い。コーナー脱出時のトラクションも不足なし。強力なEVトルクも細いタイヤできっちりと受け止めて、後ろからグイグイ蹴り出される感覚は、なるほどミドシップ(というよりほぼリヤモーター)車ならでは……である。
日本仕様のi3はハンドル位置だけでなく、急速充電が日本規格のCHAdeMO対応、さらに日本の立体駐車場に合わせて、全高が欧州仕様より約3cm低い……と、本気度がうかがえる細かい作り込みが見て取れる。全高を低める方策には専用デザインのルーフアンテナ基部のほか、おそらくサスペンションもローダウンされており、日本仕様のi3は大径タイヤがホイールハウスに食い込んで見えるほど低い。
欧州仕様の試乗経験がないため断言はできないが、乗り出して誰もがすぐに指摘できる乗り心地の硬さ、地を這うような低重心感、鋭く俊敏な操舵レスポンスなどは、ローダウンしてロール剛性を引き上げた日本仕様特有の部分も大きそうだ。それでもボディがミシリともいわない硬質な剛性感はさすが複合素材ボディだが、荒れた路面ではどうしても跳ねがちな乗り心地に加えて、前記の回生ブレーキもあるから、i3では前方の交通状況や路面を先読みして走行ラインや加減速を正確にあやつる運転が必要となるだろう。
それにしても乗り心地には改良の余地が大ありなものの、動力性能は素晴らしく、ハンドリングは超俊敏、ボディはとことん高剛性……と、i3の乗り味は、まるで本格チューンド・カフェレーサーのようでもある。