揉め事が絶えないロンドン環境政策 選挙敗北に提訴、でも止めない ULEZ拡大、8月29日実施へ
公開 : 2023.07.31 06:45
一定の排出ガス規制を満たさない車両に「毎日」違反金を課すというロンドン。対象エリアの拡大を巡って行政区が提訴し、補欠選挙にまで影響が及ぶなど波紋が広がっています。しかし、当の市長は計画を止める気はない様子。
ULEZ拡大、8月29日実施はほぼ確定
英国の首都ロンドンで、環境政策を巡る一連の騒動に決着が着いた。サディク・カーン市長が掲げる「超低排出ガスゾーン(ULEZ)」の拡大計画が、8月29日に実行に移されるという判決が下されたのだ。
ULEZは、都市部における大気質改善の一環として、一定の排出ガス基準を満たさない車両が規定エリアに侵入する際、違反金を課すというもの。すでにロンドンの一部区域で実施されているが、カーン市長は対象エリアをほぼ全域に拡大する計画だ。
具体的には、2005年に制定の欧州排出ガス基準「ユーロ4」を満たさないガソリン車と、同じく2015年に制定の「ユーロ6」を満たさないディーゼル車に対し、1日12.50ポンド(約2270円)の違反金が課される。
ULEZの拡大計画は、生活費が高騰している今、違反金の支払いや適合車種の購入はドライバーに劇的な経済的影響を与えるとして、広く非難を浴びている。
保守党が主導する5つの行政区・郡は、カーン市長にはこのような措置を導入する「権限がない」こと、また影響を緩和するために考案されたスクラップ・スキーム(廃車支援制度)には効果がないことを主張し、高等法院にこの計画を提訴した。しかし、高等法院はこの訴えを退け、計画は実施されることになった。
カーン市長は、この「画期的な決定」を「ロンドン郊外の大気の浄化を進めることができる、良いニュースだ」と歓迎した。
「ロンドン市民が抱くかもしれない懸念に対処するために、可能な限りのことをする」と約束し、「ロンドンを走っている10台のクルマのうち9台は、すでに基準を満たしているので、1ペニーも支払う必要はない」と述べた。
スクラップ・スキームは、基準に適合しない車両の廃車や、適合に向けた改造の補助金として最大5000ポンド(約90万円)を支給するというロンドン交通局(TfL)の制度。
しかし、英国の車両データ管理企業Cap HPIの予測戦略・運営責任者ディラン・セッターフィールド氏によれば、このスクラップ・スキームは、影響を受けるドライバーのごく一部しか補償されず、しかも標準的な支給額で2000ポンド(約36万円)までしか補償しないため、「ULEZ基準を満たす車両の購入を促進するには十分でない可能性がある」という。
ULEZ拡大計画は、去る7月20日の補欠選挙でアクスブリッジ・サウスライスリップ選挙区における労働党の敗北に一役買ったとして、最近になって新たな非難を浴びている。最も声高に非難したのは、同党党首のキア・スターマー氏で、労働党の政策(ULEZの拡大)が「各リーフレット」に掲載されるのは「何か非常に間違っている」と述べた。
今回の補欠選挙では、ULEZに反対する保守党のスティーブ・タックウェル候補が同選挙区で勝利した。
労働党の敗北を受けて、スターマー氏は次のように述べた。
「ULEZがアクスブリッジで選挙に負けた理由であることは間違いないと思う」
「市長も含めて、わたし達全員が反省しなければならない」
カーン市長は、スターマー氏による政策批判に対し、「正しい政策」だと反論しており、市長に近い情報筋はBBCに、市長はULEZ拡大計画を延期するつもりはないと語った。