EV販売が鈍化 頭打ちの要因は「消費者の関心薄れ」 雲行き怪しい英国のEVシフト

公開 : 2023.08.01 06:25

2035年に完全EV化を目指す英国。しかし、エネルギー価格の高騰や補助金の撤廃から消費者の関心は薄れ、EV販売の伸びが鈍化しています。業界団体は対策を求めますが、果たしてその効果はいかに。

伸び悩むEV販売 100%普及は実現可能か

英国ではエネルギー価格の上昇などによる「生活費危機」と、ますます強まるEV反対派の声が相まって、消費者のEVへの乗り換え意欲が減退している。

英国におけるEVの新車登録台数は、今年1~6月で前年同月比32.7%(3万7719台)増加したが、その多くは半導体不足の緩和やその他の部品供給問題の解消によるものである。

EVの英国市場シェアは伸びているが、成長に鈍化が見られる。
EVの英国市場シェアは伸びているが、成長に鈍化が見られる。

市場全体としては18.4%増だが、これとは対照的に、かつては指数関数的な成長を示し、市場全体の健全性を示す重要な指標であったEV市場シェアの伸びは、はるかに緩やかである。

2019年の英国EV市場シェアは0.9%、2020年には4.4%、2021年には7.2%、2022年には14.4%と上昇を続けてきた。今年は6月までで16.1%をマーク。それでも内燃エンジン車・ハイブリッド車が禁止される2035年(英国政府の現方針)までに100%普及させるという目標からすると、成長は非常に緩やかなものであり、政府が中間目標として来年設定する22%にも遠く及ばない。

減速の背景には何がある?

この市場シェアの頭打ちは、全体的な自家用EV登録台数の低迷によるもので、前年同期比で約20%減少し、エンジン車を含む全新車登録台数の半分以下となっている。

自家用、すなわち個人所有として今年販売されたのは、フォルクスワーゲンID.5のわずか13%、テスラモデルYの21%、フォードマスタング・マッハEの41%にとどまる。

いわゆる「生活費危機」もあり、個人のEV購入意欲が低下している。
いわゆる「生活費危機」もあり、個人のEV購入意欲が低下している。

英Auto Traderが発表した調査レポート「The Road to 2030」によると、EVに関する販売店への問い合わせ件数は前年比で65%減少しており、割合としては全体の9%(前年27%から減)にとどまるという。少なくとも個人の消費者においては、EVへの関心が薄れていると言えるだろう。

補助金で需要拡大につながる?

現在、当然といえば当然だが、消費者のEV購入を軌道に乗せるために、補助金などのインセンティブを再導入する、あるいは障壁を取り除くべきだという声が業界全体から大きくなっている。

フィアットUKのダミアン・ダリー代表は、小型EVの500の購入者に対し、3000ポンド(約55万円)の補助金を支給することを決定した。「最悪のシナリオは、人々が手をこまねいて、切り替えの最後の瞬間まで待つことによって、移行が遅れることです。つまり、それを促すインセンティブが必要なのです」と同氏は言う。

英国では「EV購入に対するインセンティブを増やすべき」という主張が目立つ。
英国では「EV購入に対するインセンティブを増やすべき」という主張が目立つ。

「当社の補助金(E-grant)の力は明らかです。この1か月で、500へのお問い合わせは過去5か月を上回りました」

英国フランチャイズ・ディーラー協会(NFDA)のスー・ロビンソンCEOも同意見だ。 「EVの販売促進に大きな役割を果たしたプラグインカー補助金(PiCG)の再導入を提唱したい」

「価格格差は市販のEVモデルが増えたことで縮小しつつあるものの、依然として普及の大きな障壁となっています。しかし、英国政府のPiCGは2022年6月に撤廃され、国内のEV需要に悪影響を与えました。(内燃エンジン車の新車販売が禁止される)2030年までにスムーズに移行できるかどうかは、EVが経済的かどうかに依存しています」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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