英国で今問題のLTN制度 「渋滞を押し付ける」と疑問視、首相も調査命じる

公開 : 2023.08.02 06:25

交通量を減らし、都市部の居住環境を守るために「LTN」という制度を導入した英国。今、その有効性に疑問が投げかけられ、首相が調査を命じる事態に発展しています。果たしてどのような制度なのか。

住宅地の通行制限 効果はあるか

英国では、都市部や住宅地の交通量を減らすために「LTN(Low Traffic Neighbourhood)」という制度が導入されている。対象道路における一般車両の通行を、標識やバリアによって制限するというもので、1970年代にロンドンで始まり、今や国内各地に広がっている。

しかし最近、英国のリシ・スナク首相がLTNの利用について見直しを命じたことで、にわかに話題となっている。LTNが実際にどのように機能しているのか、そしてどんな効果をもたらしているのか。交通渋滞を別の場所に押し付けているだけだという批判の声も、一部からは聞こえてくる。

一般車両の通行を制限するLTNだが、その有効性に疑問が投げかけられている。
一般車両の通行を制限するLTNだが、その有効性に疑問が投げかけられている。

LTNは1970年代に導入が始まったと書いたが、今のように広く使われるようになったのは2020年春からと、つい最近のことである。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ウォーキングやサイクリングなどのアクティブなライフスタイルを促進する、安全で清潔な空間を確保するという政府計画の一環として、2020年から21年にかけて多額の資金が投じられ、一気に拡大したのだ。

採用されたのは、バーミンガム、ブリストル、ロンドン、オックスフォード、サウサンプトンなど。

これはもともと保守党の掲げる政策であったが、同党のスナク首相は疑問を投げかけている。彼がサンデー・テレグラフ紙に語ったところによると、自身は「ドライバーの味方」であり、国民が「自分にとって重要なすべてのことをするためにクルマを使う」ことを支持しているという。

スナク首相は、LTNがどのように機能しているかを確認するよう運輸省に命じたと述べた。これは、7月初めにマーク・ハーパー運輸大臣が、イングランドでのLTNへの新規資金提供を停止したことを受けたものだ。

この見直しの一環として、現行のLTN制度に何らかの変化があるのかどうかは明らかにされていない。

「国民の大多数は移動にクルマを使い、クルマに依存しています。わたしはただ、わたしが国民の味方であることを知ってもらいたいのです。彼らが自分にとって重要なことをするためにクルマを使えるようサポートします」

車両の通行を制限するLTNは、都市部・住宅地の居住環境に深く関わる。英国では最近、環境政策を巡る意見の対立が顕著になっている。政府は2030年にガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する計画だが、延期の可能性も示唆されている。

また、現ロンドン市長で労働党のサディク・カーン氏は、ULEZ(超低排出ガスゾーン)の対象エリア拡大を計画しているが、これが市民からの反感を買い、7月の補欠選挙ではアクスブリッジ・サウスライスリップ選挙区で保守党に敗れる要因となった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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